連載中止になった菊池真理子氏のコミックを単行本化=永江朗
以前この欄で、菊池真理子のコミック『「神様」のいる家で育ちました宗教2世な私たち』が連載中止になり、ウェブメディアからも削除されたことについて記した(2022年5月3・10日合併号)。その後の動きがあったので報告する。
このノンフィクションコミックは、作者自身を含め、信仰を持つ親のもとで育った子供、いわゆる「宗教2世」の苦悩について、取材を基に描いた。集英社のウェブメディア「よみタイ」で連載されていた。
ところが2022年1月26日に公開された第5話を公開終了にした。編集部の「お詫(わ)びとお知らせ」では〈あたかも教団・教義の反社会性が主人公の苦悩の元凶であるかのような描き方をしている箇所がありました〉として、公開終了の原因が作者にあるかのような書きぶりだった。その後、連載そのものを終了し、「よみタイ」からも削除。終了理由として編集部は〈本来、制作段階にて編集部が行うべき事実確認や表現の検討が十分ではない箇所がございました〉としていた。その前後から、宗教団体からの圧力があったのではないかとささやかれていた。
この作品が文藝春秋から単行本として刊行されることが発表された。単行本では連載された原稿に加え、未発表作と書き下ろし計45ページが収録され、総ページ144ページ。発売日は10月6日。
文藝春秋のニュースリリース(8月17日)の著者コメントには〈当初は別媒体で連載していましたが、宗教団体からの抗議をきっかけに休止となり、一度は消えかけた作品です〉という文章もある。「よみタイ」編集部の発表でははっきりしていなかったが、宗教団体からの抗議があったことが明らかになった。
安倍晋三元首相の殺害事件で宗教2世の問題が注目されるなかでの発売となった。逆にいうと、あの事件がなければ宗教2世の苦悩や宗教団体からの各方面への圧力についてこれほど関心が高まることがなかったかもしれない。
宗教をめぐる議論はタブー視されがちだが、それが偏見と差別の温床ともなる。集英社は宗教団体との間で何があったのか、文藝春秋と何が違うのか、明らかにしてほしい。
この欄は「海外出版事情」と隔週で掲載します。