教養・歴史書評

「効率よい消費」から「けちくさい節約主義」をあぶり出す現代文明論=ブレイディみかこ

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 読書を職業にしている日本のある好事家から『映画を早送りで観る人たち ファスト映画・ネタバレ──コンテンツ消費の現在形』(稲田豊史著、光文社新書、990円)を薦められた。「タイトルからは想像しづらいが、実は現代文明論になっており、名著である」という。確かに、面白い。「タイパ」(コスパがコストパフォーマンスの略語であるように、タイパはタイムパフォーマンスの略語)なんて言葉を初めて知ったし、わたしは映像作家ではないが、最近の日本の出版市場動向について「?」と思っていたことの背景が見えたような気がする。

 映画やドラマを倍速視聴する人が増えているという。これは、それを可能にするサービスの存在(ネットフリックスなど)、映像作品の供給過多など、送る側の変化にも起因する。が、受け取る側も変わっている。「コストパフォーマンス」と「タイムパフォーマンス」を求め、映像を作品として鑑賞するのではなく、コンテンツとして消費しているというのだ。手っ取り早く先に結末を知ってから見たい。心を揺さぶられたくない。全部セリフで説明してほしい(想像力とか使いたくない)。どうでもいい日常会話は早送りする。好きなシーンだけ繰り返し見たい。分からないものはつまらない。

 送る側と受け取る側の関係は、鶏と卵のようなもので、どっちが先導して変わっていくのかは不明だが、これを読んでいると、この「消費」型の楽しみ方が今後は主流になりそうだ。

 コストパフォーマンスにしてもタイムパフォーマンスにしても、効率の良さを求めると賢そうだ。しかしこれらは節約主義だろう。感情を節約したいから、まず結末を知りたいのだろうし、頭を使うことを節約したいから、全部言葉で説明してほしい。わからないものを追求する努力を節約したいから、わからないものは駄作認定する。

 だけど、何がそんなにもったいないのだろう。お金や時間や感情や思考力をそんなに節…

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週刊エコノミスト

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