人生に目の歓びは必須 オランダ理解の鍵は絵画=楊逸
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独特な風景で不思議な異彩を放つオランダ。個性の強い国だ。
車で旅行して回るとまず、山も丘もなくどこまでも広がる真っ平な土地に驚かされる。海辺のリゾートホテルに泊まれば、リードにつながれずに飼い主について自由気ままに動き回ったり、ビーチで遊んだりする犬(小型の室内犬、獰猛(どうもう)な大型犬に関わらず)がたくさんいる。そしてホテルのロビーから部屋まで飾られた絵画に、海、帆船、風車のいずれかが必ず描かれているのにもニヤリとさせられる。
『中野京子と読み解く フェルメールとオランダ黄金時代』(中野京子著、文藝春秋、1980円)。『オール讀物』で連載されていた頃から断続的に読んでいたものなので、本になると聞きさっそく入手した一冊。
レンブラント、フェルメールが生きた17世紀のオランダ。いち早く海洋貿易を始めたおかげで経済も大きく発展し、一躍ヨーロッパをけん引する大国になり、文化芸術も花開いた。本書は以下のように記述する。
「オランダの絵画好きは近隣諸国を驚かせるほどだった。それは上流階級や富裕層に独占されてはおらず、街角のパン屋にも田舎の農家にも飾られた。しかも需要を上回るほどの供給量だったから、買い替え、買い足し、配置換えもひんぱんに行われただろう。人生に目の歓(よろこ)びは必須だと、オランダ人のほとんどが思っていたのだ」
だがそんな黄金期を迎えるまでは、この土地は度々戦禍に見舞われ、とりわけスペイン軍による「ナールデンの虐殺」はひどかった。これがオランダ人の士気を燃え立たせ、各地に自衛組織が強化され、団結してスペイン勢力と戦い、独立戦争に導いた事件は、のちに自警団の群像画が流行する一つのきっかけとなった。フランス・ハルスの「ハールレムの聖ゲオルギウス市民隊幹部の宴会」やレンブラントの名画「夜警」もこうした中から生まれた。レンブラントの光で輝く絵の中の犬から、オランダ人の犬…
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週刊エコノミスト
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