認知症当事者・家族を支援する川崎市立図書館の実践 北條一浩
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認知症コーナーを設ける図書館が増えている。早くから取り組んできた川崎市立宮前図書館を訪ねた。
本人も家族も気軽に
一見ごく普通の図書館だが、奥に進むと様子が変わる。自殺防止や家庭内暴力(DV)などのポスター、チラシ、相談窓口を書いたカードなどが随所に設置され、その一角に「小さな本棚」と書かれた棚がある。認知症に関する本を集めた棚だ。
「人目につかない場所を選んで棚を作っている。当事者や家族は認知症のことを知られたくない人もまだまだいるので、その配慮だ」
舟田彰館長はこう話す。看板は「認知症」の3文字は目立たないように小さく、「小さな本棚」のほうが大きい。試みの最初は2015年。8月から9月にかけて「認知症を知る」と題して本を集め、ミニ展示をしたところ瞬く間に貸し出しが連続し、12月には常設に踏み切った。
「小さな本棚」にある本はおよそ200冊。「認知症を介護する家族向け」「認知症を知る」「認知症の家族やご本人の体験記」など内容別に7種に分類している。
同館は「小さな本棚」のほか、館内職員のほぼ全員が参加した「認知症サポーター養成講座」や、窓口などで気持ちよく利用してもらうための応接研修などさまざまな活動を続けてきた。認知症の当事者や家族と対話し、何が知りたいのか、どう困っているのかを聞き、「小さな本棚」から選ぶサポートを日常的に行っている。
「あのころ」で交流
さまざまな取り組みの中でもユニークなのが、「あのころ会議」だ。川崎市には若年性認知症サポートデスクがあり、当事者が集まって毎日の生活や好きなことなどを話し合う「これから会議」があるが、それを逆手にとって「あのころ」を語り合う趣向だ。
「新聞の号外ばかりを集めた冊子というのがある。それを今から30~40年前に青春時代を過ごした人たちの前に置いて、皆でなつかしく語りながら盛り上がる催しを若年性認知症支援コーディネーターの渡辺典子さんと企画し、2回実施した。これが大変な盛り上がり。これからのことを考えるのは大切だが、当事者の口がなめらかになり、良い交流が生まれるのは『あのころ』のほう。今後も継続してやっていきたい」
認知症に限…
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週刊エコノミスト
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