法改正で実現した国会図書館のウェブサービスがコロナ禍でヒット 北條一浩
日本最大の蔵書を誇る国立国会図書館のサービスが自宅にいながらオンラインで受けられるようになり、新しい利用の仕方が広がっている。
アクセス1位は5月が怪獣図鑑、7月が故吉田茂国葬儀記録
今年5月19日にスタートした国立国会図書館の「個人向けデジタル化資料送信サービス」。同館のデジタルコレクションには文芸や人文科学など通常の図書のほかに官報や戦後、米軍占領下の検閲資料を集めたゴードン・W・プランゲ(マッカーサーの下で戦史室長を務めた人物)文庫など実に多彩なデータがあるが、その中から、絶版等の理由で入手困難なものをインターネット経由で個人の端末で閲覧できるようにしたものだ。
5月と7月のアクセス1位が面白い。5月は『怪獣ウルトラ図鑑カラー版』(大伴昌司著、遠藤昭吾等絵)。7月が『故吉田茂国葬儀記録』(総理府、内閣総理大臣官房編)。前者はファン垂涎(すいぜん)のコレクターズアイテムで、ツイッターで大きな話題になったことが原因。後者は戦後2回目の国葬を間近に控えた時期ならではの現象だろう。
国会図書館といえば、東京本館なら永田町まで足を運び、見たい資料を出してもらうには少なくとも15分以上は待つのが常識だった。それが入手困難な絶版ものに限られるとはいえ、自分の端末からすぐに見られるようになったこの変化は大きい。
開始時点で図書55万点、雑誌82万点、博士論文13万点などの計152万点にも及ぶ膨大な絶版等資料が対象のこのサービス。利用者数は8月末時点ですでに約5万2000人に達し、閲覧回数では1カ月間で25万回となっている。利用者サービス部の福林靖博氏に聞いた。
「人名や会社要録、企業情報、国勢調査のような、実用性の高いデータが多く閲覧される傾向がある。読み物よりも調査のためにアクセスしている印象。仕事で利用する人が多いのではないかと推測している」
例えば明治時代の資料なら、富裕層やエリートの身分、職業、戸籍調査に基づく家族や親類情報を記載した『人事興信録』や、個別の商店名、会社名が記載された都市案内地図の『大日本職業別明細図』が人気だ。
国会図書館まで足を運ぶ人というと、専門性の高い資料を閲覧する研究者やマニアックな好事家の印象があったが、インターネットの介在で様相は変わった。ビジネスもそうだが、SNSでの話題や時事的な関心など、今まさに問題になっている事柄と連動しているようだ。
テキスト検索も可能に
同サービス開始の根拠になったのは、2021年5月26日に成立した「著作権法の一部を改正する法律」だ。背景には、長引くコロナ禍の社会状況がある。外出が困難になり、来館しないで資料にアクセスできないか、という利用者のニーズが高まっただろうことは容易に想像できる。並行して、補正予算による蔵書のデジタル化も一気に加速した。
電子情報部の佐藤菜緒惠氏は、アクセス数ばかりでなく、さまざまな層の利用者の拡大に期待を寄せる。「文章の検索ができるようになれば、調査目的や本の好きな読者ばかりでなく、作家をはじめクリエーター側の人たちのヒントになる機会も増えていくのではないか」
現在閲覧できるのは画像データだが、OCR(光学的文字認識)処理の「テキスト化」作業により、この12月には資料の中身の文章の検索もできるようになるという。来年1月には個人の端末からの印刷も可能になる予定だ。
(北條一浩)