「軍制改革の推進者」としての山県有朋像を提示=井上寿一
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さきの安倍晋三元首相の国葬における菅義偉前首相の弔辞を直接のきっかけとして、にわかに山県有朋への注目が集まっている。弔辞のなかで引用されている岡義武『山県有朋』は名著にはちがいない。しかし刊行から60年以上が経過している。最近の著作も手に取るべきだろう。この観点から読むに値するのは筒井清忠編『明治史講義【人物篇】』(ちくま新書、1210円)に収められている清水唯一朗「第12講 山県有朋」である。
この論考は山県=「軍国主義の先駆者」との評価を留保する。代わりに提示するのは、欧米視察から得た知見を生かして、「徴兵制の利点を理解」する「軍制改革の推進者」としての山県像である。「近代陸軍の父」としての山県は、日清戦争の勝利によって、絶頂期を迎えた。しかしその後は不本意な人生をたどる。政党の政治的機能をめぐる伊藤博文との確執は、山県の敗北に終わる。それにもかかわらず、山県は伊藤に先立たれる。政治の「総合調整者」としての重圧がのしかかる。山県はやむなく原敬の政党内閣を認める。山県はその原にも先立たれる。後事を託すことのできる人物を失った山県の孤独が示唆される。
本書は伊藤博文や大隈重信も取り上げている。山県のわびしい国葬とは対照的にその約1カ月前の大隈の国民葬には多くの民衆がつめかけた。なぜこのようなちがいがあるのか。本書の五百旗頭薫「第8講 大隈重信」と比較して読めばヒントが得られる。本…
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週刊エコノミスト
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