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経済・企業 円安・物価高に強い200社

賃上げ圧力で二極化、勝つのは「できる企業」 加藤結花/斎藤信世(編集部)

物価高が家計を直撃している…… Bloomberg
物価高が家計を直撃している…… Bloomberg

 日本企業は30年ぶりの超円安と物価高という外的環境の変化への対応を迫られている。今後も継続して成長を見込める強い企業の条件とは……。

約32年ぶりの円安・ドル高水準

 長期停滞していた日本の物価が上昇している。8月の全国消費者物価指数(2020年=100、変動の大きい生鮮食品を除く)は、前年同月比で2.8%上昇。消費増税の影響を除くと、上昇率は91年9月(2.8%)以来、30年11カ月ぶりの大きさとなった。(円安・物価高に強い200社 ≪特集はこちら)

 物価高に加え、劇的な円安も進む。日本よりさらに高い8%超のインフレ(物価上昇)となっている米国で、インフレ抑制対策のため大幅な利上げが続くとの見方が強まったことで円安が進み、10月17日のニューヨーク外国為替市場で円相場は一時1ドル=149円台に下落し、約32年ぶりの円安・ドル高水準を更新した。

製造業の87%超が賃上げ

 外部環境の急速な変化、特に物価の高騰を背景に強まる賃金上昇の圧力に対応できるか、企業の底力が試されている。

 プラントメーカーの日工は、4月に従業員の月額給与を一律3万円引き上げた。辻勝社長は「10年間で売上高を倍にする計画の途中であり、 達成のためには人的資本の強化が不可欠だ。賃上げはエンゲージメントの向上および採用力の強化にもつながる」と説明。

 従業員1人当たりの給与等平均受給額を前年度比3%以上引き上げるため、一時金の追加支給などを行った大東建託は、「コロナ流行によるさまざまな制約の中でも会社成長のために奮闘した従業員の労に報いたいという思いで実施した」という。

「良いところは良いけれど、悪いところは悪いというのがはっきりしてきている。いわゆる二極化だ」。東京商工リサーチ情報部の小川愛佳氏は指摘する。

 同社の調査によると、22年度に賃上げを実施した企業(予定含む)は、大企業(88.1%)が9割に迫った一方で、中小企業(81.5%)は約8割にとどまり、大企業と中小企業で1割の差が出た。さらに、産業別では最高の製造業の87.27%、最低の農・林・漁・鉱業は60.71%と業種間でも差が広がっている。

 業績が苦しい中でも賃上げをしているケースもあるが、「人が集まらないから無理をしている企業もかなり出ている。人件費が増え利益が圧迫され、厳しさが増している」(小川氏)という。

 パーソル総合研究所が5月に実施した全国の就業者、企業の経営層を対象にした「賃金に関する調査」によると、業績が好調な企業は「賃上げに積極的」が52.7%に対して、業績が不調な企業は15.9%と、業績の良しあしが賃上げ決定を大きく左右していることが分かる。

 経営層の賃上げに関する意識では、「賃金アップは投資だ」(38.1%)と考える割合が、「賃金アップはコスト増だ」(18.5%)を上回っており、必ずしも経営層が賃上げを忌避しているわけではないようだ。しかし、63%が「成長なくして賃上げは難しい」と回答。「賃上げなくして会社の成長は難しい」(6.4%)を大きく上回り、会社の成長を前提にしての賃上げが多数派というのが実態だ。しかし、前述した通り業績が低い会社ほど賃上げができていない現状をみると、好転の糸口をつかむのは難しい。

正社員を増やす企業は賃上げも積極的

 同研究所の古井伸弥・主任研究員は「賃上げだけでなく、従業員の採用を巡っても二極化が進む可能性が高い」とする。

 賃上げと同時に会社の成長のエンジンとなるのが従業員だが、正社員を増やしてきた企業は今後も「正社員を増やす」意向が強く(75.4%)、賃上げにも「積極的」(55.4%)だ。他方、非正規社員を増やしてきた企業は今後も「非正規を増やす」意向が強く(53.3%)、賃上げにも「慎重」(41.1%)という結果が出た。

 外部環境の変化に対応し、勢いを増そうとしている企業もある。家電や便利グッズなど幅広い生活用品を企画・製造・販売するアイリスオーヤマだ。

 同社は、21年度の売上高が過去最高の2494億円で、増収増益。今春に正社員3538人を対象に平均3.6%のベースアップと新卒初任給の引き上げを決めた。

 国内出荷を強化するため、国内10拠点目となる岡山瀬戸内工場の竣工を25年に予定する。地政学リスクなどを踏まえた安定供給などの観点で、中国にある四つの工場から、主力商品であるプラスチックの収納用品約50種類の金型を日本の3拠点(埼玉、米原、鳥栖)に移管。10月から製造ラインを立ち上げる。円安の影響などで、一部の商品については中国で生産するよりも2割ほどコストダウンできるメリットもある。

注目される来年の春闘

 グローバル経営企画部の小松健一郎マネジャーは「複数の工場での生産、工場の稼働を7割程度としてバッファーを設けるなど、変化への対応は常に意識している。会社が成長し、新入社員も増え(22年度過去最多を採用)活気がある」と語る。

 賃金上昇の圧力となる物価高は今後どうなるか。日銀が10月に発表した生活意識に関するアンケート調査によると、「1年後の物価予想」は平均値でプラス8.5%だった。消費者は身の回りの物価に敏感になっている。

 斎藤太郎・ニッセイ基礎研究所経済調査部長は「長らく物価上昇が起こっていなかったため労使交渉のテーマになってこなかったが、今回の物価高は無視できず、来年の春闘では賃上げの材料となる。賃上げができる企業とそうでない企業が出るだろう」とみる。

「賃上げができる企業」であれば、業績や採用などでも期待が持てる。市場関係者が有望株を見極める指標としても注目必至だ。

(加藤結花・編集部)

(斎藤信世・編集部)

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