イタリア史家が最新知見を持ち寄って編んだ一冊 本村凌二
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このたび公刊されたイタリア史研究会編『イタリア史のフロンティア』(昭和堂、3850円)では、多数のイタリア史の専門家がそれぞれの分野で最新の知見を披歴する。
第Ⅰ部「環境・空間・地域」では、まずイタリアの中世が始まる時期のランゴバルド人について、考古学資料の分析を通して注目する。次に、ポー川デルタ地帯の自然環境に迫り、ポー川につながる多数の河川、運河などが北イタリア諸都市の政治経済にどう関与していたかを浮かび上がらせる。また、アドリア海上にある都市ヴェネツィアが、ラグーナ(潟)によって水環境を保全し、水利行政のなかで重要であったことや、海上法の基礎を作った都市アマルフィの海上商業について述べられる。ヴェネツィア共和国とナポリ王国の関係を例として、南北に分断されがちなイタリア史だが、全土への目配りも大切だと指摘する専門家もいる。
第Ⅱ部「統治・社会関係・コミュニケーション」では、大都市のみならず近隣の農村地域や領主層、中小都市、点在する小君主勢力などが結びつくネットワークに注目する。まずは諸都市の安定のために同質の政治文化で地域をつなごうとする統治官がいたことが指摘され、トスカーナ地方における都市民が農村住民に行った貸し付けの実態、さらに北イタリアにおける小領主国家の存続に光をあてる。このほか、イタリア諸都市の海外領土におけるコミュニケーションをめぐる議論や、ジェノヴァ商人の交易活…
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週刊エコノミスト
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