サラリーマンが歓迎した「中年教養文化」としての司馬遼太郎 井上寿一
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司馬遼太郎は存命ならば今年99歳、来年、生誕100年を迎える。没後四半世紀を経ても読み継がれている。「国民作家」と呼ぶにふさわしい。きわめて多くの読者のなかで特徴的なのは、企業のトップの「私の愛読書」や座右の書に必ずといっていいほど司馬の作品が入っていることである。なぜビジネスマンの愛読者が多いのか。この疑問に答えるのが福間良明『司馬遼太郎の時代』(中公新書、990円)である。
本書は司馬の作品を「二流」「傍流」と位置づける。文芸評論家や歴史研究者が積極的に評価することはなかった。司馬自身の経歴が「二流」「傍流」だった。そのような経歴、なかでも戦車兵としての過酷な体験をとおして作られた「一流」「正統」へのいら立ちに突き動かされて作品が生まれる過程は、本書の大きな読みどころの一つである。
ここに司馬の作品が多くのビジネスマンに受容されたことを理解する鍵を見いだすことができる。サラリーマン読者が司馬に求めたのは、「正統」な文学や歴史学の作品ではなく、「歴史という教養」をとおした、「組織人としての生き方」だった。
読者の関心は勢い「明るい明治」に向かう。「明るい明治」を描こうとする司馬の「…
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週刊エコノミスト
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