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教養・歴史 書評

東京・渋谷の最大書店閉店が改めて暴く大型店の「不便」=永江朗

「MARUZEN&ジュンク堂書店渋谷店」(MJ渋谷)が2023年1月31日で閉店する。11月1日、公式サイトで発表された。閉店理由は入居している東急百貨店渋谷本店(東急本店)が営業終了するため。東急本店と隣接する複合文化施設のBunkamuraは、27年度内の完成を目指して大規模な改築改修工事に入る。東急本店の跡地には地上36階・地下4階の複合施設が建てられ、小売店のほかホテルや賃貸レジデンスも入るという。ただし、この新たな施設でMJ渋谷が営業するかどうかは未定だ。

 MJ渋谷が1100坪(3630平方メートル)の売り場面積で開店したのは10年9月だった。その3年前にブックファーストの旗艦店だった渋谷店(920坪)が閉店し、MJ渋谷が渋谷地区唯一の超大型店に。JRや東急、東京メトロ、京王電鉄の渋谷駅を利用する人にとっては頼りがいのある書店である。

 代替店舗について公式サイトでは「候補物件の選定など検討しているところですが、まだ具体的な進展はございません」とある。近隣で同規模の物件を見つけ出すのは難しい。このまま閉店するのではという悲観的な見方もある。ブックファーストは旗艦店を新宿西口に移し、渋谷には規模を縮小した「渋谷文化村通り店」を置いたが、17年に閉店した。

 想起されるのが、17年5月の「日経BPマーケティング特約会」で、当時の工藤恭孝丸善ジュンク堂書店社長が「大型書店は本を探すのに苦労する『ただ不便』な店になった」と発言し、業界に大きな衝撃を与えたことだ。もっとも、その後、「プレジデントオンライン」のインタビューでは、「だから、対応を考えなければならない」という後段が抜け落ちて伝わってしまった、と語っているのではあるが。

 工藤氏のいう「不便」はネット書店と比較して、という意味だった。実際、日本出版販売の出版流通学院が発表する市場規模の調査でも、出版物市場全体は縮小しているにもかかわらずインターネット経由と電子出版物の市場は伸び続けている。広い売り場に書籍を豊富に並べるだけでは読者は引き付けられない。大型書店は曲がり角にある。


 この欄は「海外出版事情」と隔週で掲載します。


週刊エコノミスト2022年12月6日号掲載

永江朗の出版業界事情 東京・渋谷の最大書店が閉店

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