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リノベマンションにありがちな「構造的」落とし穴 大木祐悟

東京都内の物件。リノベ前(上)は築後45年の古さを感じるが、改修後(下)は設備も新しくそうした印象は消える 筆者提供
東京都内の物件。リノベ前(上)は築後45年の古さを感じるが、改修後(下)は設備も新しくそうした印象は消える 筆者提供

 手ごろな価格の「リノベーションマンション」が人気だが、「建て替え」などの情報開示不足で、購入者に想定外の金銭的負担が生じる場合がある。

「建て替え」「耐震」の有無確認を

 新築分譲マンション価格の高止まりが続いている(図)。低金利が継続しているほか、建築費の高騰、円安等がその主たる要因であるが、新築マンション供給の減少も要因の一つと考えられる。

 一方でマンションを購入したいという旺盛なニーズもあるため、都心部を中心に、中古マンション取引も増加し、その結果として価格も高騰している。中でも、住戸内の設備仕様が最新のものとなっている「リノベーションマンション」は人気を博しているようである。本稿では、このリノベーションマンションのメリットと留意点について述べたい。

 先進国との比較のなかで、わが国の住宅の耐用年数の短さは以前から問題となっている。例えば、国土技術政策総合研究所の「住宅の長寿命化に向けた研究の取り組み」によると、住宅の寿命について英国77年、米国55年に対し、日本は30年としている。しかしながら、スクラップ&ビルドではなく、良い建物をより長く利用する方向にかじを切ることは経済的な合理性もあるし、これからの社会の要請でもある。ことに、堅牢(けんろう)な構造の建物であるマンションは、長く使い続けるべき不動産の代表格と考えてよいだろう。

 もっとも、間取りや設備の嗜好(しこう)は時間の経過で変わるので、必要に応じたリノベーションを施すことは、不動産としての価値を維持できることにもつながるはずである。

 冒頭の写真のうち、上は築後45年くらい経過したマンションで販売当時のままの状態の住戸、下は同じマンションでリノベーション済みの住戸のキッチン回りを撮ったものであるが、リノベーション後の住戸には古さは感じられないことが確認できる。

 以上の点から、マンションのリノベーションは、基本的には社会的にも経済的にも意義があることを理解できるだろう。

耐震で追加拠出の要請も

 一方で、一部であるが築年数が経過したリノベーションマンションには課題を抱えているものもある。ここでは、主たる留意点を2点挙げたい。

 第一は、特に不動産会社がリノベーション再販をしているマンションの価格の高さである。特に立地が良いと、築年数が経過していてもリノベーション再販マンションはかなりの高値で売買されているケースが散見される。

 第二は、高経年マンションを中心に、所有者の専有部分(住戸の内装クロス(壁紙)から内側の部分)がきれいにリノベーションされていても、構造などに深刻な問題を抱えているものが存在することである。

 価格が少々割高であっても、マンション購入後も長きにわたり安心して過ごすことができるのであれば特段の問題はない。だが、そのマンションが「第二の問題」を抱えている場合には、購入者はさまざまなトラブルに巻き込まれることも考えられる。

 筆者は本誌2022年10月11日号で、耐震診断をしていない旧耐震マンションの問題点を指摘した。例えば、耐震性の問題について、購入者が特段の告知も情報もないままマンションを購入したのちに、管理組合で耐震補強について決議がなされたという話を聞くことがある。その結果、特に修繕積立金不足等の理由により、管理組合から一時金として追加の資金拠出を求められることになると、住宅ローンを返し始めた身にとってはかなり酷な状況になるだろう。

 以上の理由から、リノベーション再販で購入した区分所有者の数が多くなると、本来は必要な耐震補強が進まない事例も出ているようである。

 また、リノベーションマンションが売買される時点で、管理組合で「建て替え」を考えているようなこともある。仮に建て替えの計画が進んでしまうと、少なくともリノベーションにかけた費用は建て替えの際に全く評価されない可能性が高い。単に解体するだけのものには、何の価値もないことがその理由である。中には、管理組合で建て替えの検討を始めているのに、所有者や販売会社がそうしたことに一切言及せずに高値でリノベーション再販をしている悪質なケースもある。

「高経年」のババ抜き

 ところで、建て替えを検討しているマンションの中には「建て替えを前提とした評価額」がリノベーション再販価格で売買される額をはるかに下回るケースも散見される。だが、建て替えの開発業者などから示されている評価額が総会で決議された事項等でなければ、売り主はその事実を示さずに売却することが可能だ。そのため、この事実が判明した時点で、「市場価格」でマンションを売却する例もある。実際、評価額を知ったとたん、理事長が真っ先に売却したという話を聞いたことがある。少しえげつない言い方をすると、「高経年マンションのババ抜き」のようなことも行われているわけである。

 構造的に何の問題もないマンション、あるいは専有部分だけでなく建物の構造を含め、耐震等の抜本的なリノベーションがされているものであれば、リノベーションマンションは歓迎すべきものである。しかしながら、前述の第二の問題を抱えたマンションが、特にリノベーション再販等の名前のもとで高値取引されていることは、わが国の不動産の中古市場の信用性をゆがめることにもつながりかねない。

 一方で、買い主にとって不利な情報は、本来は取引の時に開示されるべき事項と思われるが、総会決議もされていない情報の開示まで制度化することは困難である。そうなると、不動産業に携わる者が適切に情報を開示する意識を持つことも必要であるが、何よりも消費者の側が物件を見る目を持つことが極めて重要であると思われる。

(大木祐悟・旭化成不動産レジデンス マンション建替え研究所副所長)


週刊エコノミスト2022年11月29日号掲載

「リノベマンション」の落とし穴 「建て替え」「耐震」の有無確認を=大木祐悟

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