経済・企業

EVで巡る再エネ最前線③八幡平市、地熱の蒸気・温水を観光や農業にも活用――発電技術の進化で利用可能量も増加

八幡平市、東北大学、アウディ・ジャパンがパネルディスカッションに参加
八幡平市、東北大学、アウディ・ジャパンがパネルディスカッションに参加

 独自動車メーカー、アウディの日本法人、アウディ・ジャパンが2022年10月18日岩手県八幡平市で開催した第2回目の「アウディ・サステナブル・フューチャー・ツアー」。ツアーの最後は八幡平市の市役所で、市、東北大学、アウディの3者によるパネルディスカッションがあった。

アウディ、独のEV工場で「脱炭素」を実現

 まず、アウディ・ジャパンのマティアス・シェーパース・ブランドディレクターから、同社のビジネス戦略について説明があった。ドイツのアウディ本社は2021年9月に経営戦略「Vorsprung 2030」を発表。計画では、2026年以降に発売する新車は全て電気自動車にし、2033年にはエンジン車の販売を中止する。

 また、2025年までに15年に対して、同社が製造・販売する車両からライフサイクルに渡って排出されるCO2の排出量を30%削減していく。同社によると、CO2は車両の製造とサプライチェーンでそれぞれ25%ずつ、ユーザーの使用段階で50%排出している。現在、同社の電気自動車(EV)は、①ベルギーのブラッセル工場、②ハンガリーのジェール工場、③独ツビィッカウ工場、④独ネッカーズルム工場の4工場で製造されている。これらの工場では太陽光パネルの設置や地熱エネルギーの導入などにより、製造段階ではカーボンニュートラルを実現しているという。

 サプライチェーン段階での削減では、例えば、ボディに使うアルミをリサイクルされた2次アルミにすることで、原料から製造する1次アルミに比べて最大95%のCO2を節約するという。この施策は既に、ハンガリーのジェール工場や独ネッカーズルム工場に取り入れられている。

アウディ・ジャパンのマティアス・シェーパース・ブランドディレクター
アウディ・ジャパンのマティアス・シェーパース・ブランドディレクター

EV充電のため、家庭用再エネ供給会社

 また、EVに充電する電気の脱炭素化のため、欧州では、フォルクスワーゲン(VW)の子会社である再生エネルギープロバイダー「Elli(エリー)」を通じて、家庭に電気と充電器を提供している。アウディの日本での家庭用充電器の能力は8㌔㍗時が上限だが、Elliは22㌔㍗の高出力で供給可能だ。また、アウディは独北部のメクレンブルグ=フォアポンメルン州で、独最大級の1億7000万㌔㍗のソーラーパークに投資している。5万世帯分の電気を供給できるという。

 日本国内では、アウディのディーラー網で急速充電器の設置を加速。年内には、50㌔㍗時の充電器を42拠点、90㌔㍗時を8拠点、150㌔㍗時を52拠点に導入する予定であることなどがシェーパース氏から説明された。

日本の地熱資源量は世界3位、利用は世界10位

 次に東北大学流体科学研究所の鈴木杏奈准教授から、日本の地熱発電の現状について説明があった。鈴木氏によると、日本の地熱資源は、アメリカ、インドネシアについて世界で3番目のポテンシャルを持つが、実際の利用では、世界10位で、地熱資源が日本約4割のケニアにも負けているという。その背景として、1993年に政府の新エネルギー開発の対象から地熱が外されたほか、地熱開発による「温泉の枯渇」を懸念する各地の温泉地の反対があった。しかし、2011年の東日本大震災による福島原発事故で、再び、天候に左右されず昼夜発電できる「ベースロード電源」として注目されている。

東北大学流体科学研究所の鈴木杏奈准教授
東北大学流体科学研究所の鈴木杏奈准教授

進化する地熱発電技術

 技術自体も進化している。地熱発電には、①熱、②水、③岩の割れ目(水の通り道)――が必要で、この三つが揃ったものを「地熱貯留層」と呼ぶ。だが、日本国内や世界でもこの三つが揃ったところは少なく、「熱と水の通り道はあるが、水がない」というケースもある。その場合は、地表から地下の割れ目に冷たい水を供給し、能動的な水の循環システムを作る。これは、「エンハンスドジオサーマルシステム(EGS)」と言われるもので、こうした新技術により、従来よりも多くの地熱資源を利用できる可能性が高まっている。

温泉利用で、CO2排出量を1000分の1に

 また、熱そのものを輸送する技術が確立していないので、地熱の「地産地消」を進める必要性も訴えた。例えば、発電後のお湯を、家庭用の浴槽で使うことも、CO2の削減に役立つ。東北大学の試算によると、ガスや電気で風呂を沸かす場合、年間で一人当たり杉70本の吸収量に相当するCO2を排出している。それを温泉に代えると、一人当たりの排出量は杉0.08本分と約1000分の1まで下げることができる。

 日本の地熱資源の問題点の一つに、埋蔵量が豊富な北海道や岩手県などの地方は、過疎化による人口減少が進んでいることがある。地熱資源の開発を進めても、地元の雇用などにつながらなければ、地元の温泉地の賛同は得られない可能性がある。

アイスランドの地熱利用の巨大温泉「ブルーラグーン」

 鈴木氏は、地熱発電の排水を利用した世界最大の露天温泉であるアイスランドの「ブルーラグーン」の事例を紹介。広さは50㍍プール4個分で、70度以上の排水を38度くらいに調整して、入浴に活用している。年間の来場者は130万人で年間収益は130億円に上る。「熱水を利用して新しい価値を作り出すことで、地熱利用の可能性を広げている」(鈴木氏)。

再エネは地域の利害関係者が協力する「分散型システム」に

 鈴木准教授は、原子力など国が主導する旧来のエネルギーに対して、再エネはさまざまなステークホルダー(利害関係者)が協議して開発を進める「分散型のシステムになる」と指摘した。地元住民や自治体、温泉事業者などの様々な価値観が存在し、対立するなかで、どう、共通の目的に向かって、利害を調整するか。その際に大事なのは、異なる分野の人々をつなぎ合わせる「感性」という。

八幡平市は、「みのり(農業)とひかり(観光)の大地」

 最後は、八幡平市の佐々木孝弘市長から、同市の現状と地熱発電の取り組みについて話があった。同市は平成17(2005)年9月、2町1村の合併で誕生。面積は東京都の4割に相当する162平方キロメートルに2万4114人が住んでいる。主要産業は観光と農業で、「農(みのり=農業)と輝(ひかり=観光)の大地」が同市の目指す将来像となっている。観光では、日本を代表するスキーリゾートである安比高原スキー場を擁する。

 合併以来人口減少が進んでいたが、英国の名門校の日本校である全寮制学校「ハローインターナショナルスクール安比ジャパン」を誘致し、初年度に180人が入学したことで、今年8月、初めて人口が増加に転じたという。

八幡平市の佐々木孝弘市長
八幡平市の佐々木孝弘市長

日本で初めての地熱発電所が1966年稼働

 温泉地としての歴史は深く、秘湯松川温泉の開場は1016年。昭和30(1955)年、当時の旧松尾村の村長が新たな温泉を試掘したが、温泉が出ず、代わりに蒸気が噴出。それを、発電に活用できないかと日本重化学工業の協力を得て、20億円投資し、昭和41(1966)年10月に「松川地熱発電所」として日本初の商用地熱発電所として運転を開始した。

 この地熱で使った蒸気で温水を造成、それを総延長46㌔のパイプ管で、旅館やホテル、病院や農業用ハウスまで700件の施設に配湯、それにより、「八幡平温泉郷」が形成されている。

地熱でバジル、枝豆の生産

 地熱は農業にも活用されている。後継者不足で放棄された農業用ハウスを活用し、株式会社「八幡平スマートファーム」では、IoT(モノのインターネット)と水耕栽培で、バジルを栽培。また、枝豆の初出荷も行った。「生の枝豆が年中食べられることになれば画期的」(佐々木市長)。

地熱蒸気で染色も

 地熱蒸気を利用した染色も行っている。これは、蒸気の熱による染料の定着作用と、蒸気の中に含まれる硫化水素による脱色作業を同時に組み合わせたもので、虹色に輝くネクタイやストラップなどを染めている。

八幡平市では地熱によりネクタイやストラップなどを染色している(佐々木孝弘市長)
八幡平市では地熱によりネクタイやストラップなどを染色している(佐々木孝弘市長)

 八幡平市では、2019年1月に2番目の地熱発電所「松尾八幡平地熱発電所」が出力7499㌔㍗で運転を開始、24年4月からは、3番目の「安比地熱発電所」が計画出力1万4900㌔㍗で運転を始める予定だ。

地熱の「地産地消」に課題

 一方で、佐々木市長からは、地熱発電を巡る課題も説明された。特に発電された電力は再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度(FIT)で電力会社に販売されるため、せっかくの電気が市内に循環せず、一部の市内の公共施設などを除き、市外で売電されてしまっている。

 また、松川地熱発電所と異なり、松尾八幡平地熱発電所では、発電に利用された蒸気や熱水の再利用が進んでいない。これには、昨今の環境規制の強化が響いている。地下の熱水にはホウ素やヒ素が含まれており、現在の水質汚濁防止法では、特定施設からの汚水や廃液の排水を規制している。地熱発電所は法律上の特定施設に該当しないが、環境への配慮から地下に還元している。

環境規制が排水の2次利用の壁に

 また、平成24年4月3日閣議決定された「エネルギー分野における規制・制度改革に係る方針」に基づき、環境省が「地熱発電所の熱水の多目的利用について」を整理。その中で「地熱発電所からの熱水の多目的利用を行う場合には、利用後の水の全量を回収し、元の熱水が存在した地下深部に還元することを基本とすべきである。」とされたことも影響している。

 それに対し、松川地熱発電所からの温泉供給が可能な理由としては、これらの制度確立前であったこと、松川温泉地域が蒸気卓越型貯留槽を形成しているため蒸気のみが噴出し、国内で唯一ドライスチーム方式で発電しているため、通常運転時は熱水が発生せず、還元井を使用していないという特殊な事情もあるという。

 佐々木市長は、松尾地熱発電所の排水の活用について、「足湯とかトイレの暖房とか考えているが、やはり使える湯の量が限られているので、なかなかいいアイデアが湧いてこない」と語った。

全世界は「電気自動車」の流れに

 その後、東北大学の4名の学生を交え、パネルディスカッションが行われた。

 学生からは、電気自動車に対する他のメーカーの動向について質問が出た。それについて、シェーパース氏は、「全世界の流れでは、次世代の乗用車に関しては、電気自動車と確定済み。それに対し、日本のメーカーは、(ハイブリッドや水素も含めた)違う技術を含めた考えを持っている。そうした意味で世界と日本の自動車産業の間で、一部、ずれが生じている」と答えた。

東北大学の学生からは熱心に質問が寄せられた
東北大学の学生からは熱心に質問が寄せられた

「EVにおけるアウディの強みは何か」という質問に対しては、「プレミアムブランドとしては、2018年の早い段階からEVを導入している。当社のブランドは、自分の価値観がしっかりしている顧客に選ばれており、そうした価値観にいち早く対応できた」と話した。

再エネ普及に日本での議論活発化を

 ドイツ本国におけるアウディのサステナビリティへの取り組みについては、「再生エネルギーを普及されるには、様々なステークホルダーが出てくる。サステナブルな社会を作るために、(EU(欧州連合)や独政府など)もっと大きな規模で連携している。我々も今回のツアーのように日本でもっと仲間を増やし、再エネに関する議論を活発化させたい。まずは、話し合いが始まらないと次が生まれてこない」と説明した。(稲留正英・編集部)

(終わり)

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