肥料高騰・不足が食糧市場を「危機」に陥れる 柴田明夫
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ロシアのプーチン大統領は肥料を「武器」とみて、供給先を踏み絵にかけようとしているようにみえる。
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ロシアのウクライナ侵攻を受け、2022年前半にかけて高騰したコモディティー価格(エネルギー、金属、食糧)は、足元では下落基調にある。世界的なインフレ高進と、その抑制に向けた欧米中央銀行の金融引き締めによる景気後退リスクを反映したものだ。8月からウクライナ産穀物の輸出が再開されたこともヘッジファンドなどの売りを誘った。
とはいえ、22年12月初めの時点で大豆、小麦、トウモロコシ価格ともに、20年の水準を上回って高止まりしている。金、原油、銅なども下値は堅い。筆者は、コモディティー市場では、価格体系の上方シフトが生じているとみている。
23年に懸念されるのは、農業の生産性向上に欠かせない3大肥料(尿素、リン酸、塩化カリ)の価格が、21~22年にかけて急騰した影響が、農業危機に発展しないかということだ。世界銀行によると、リン酸価格は19年の1トン当たり平均88.0ドルだったのが、22年10月には同317.5ドルと3.6倍、塩化カリは同255.5ドルから562.5ドルへ2.2倍、尿素は同245.3ドルから636.3ドルへ2.6倍となった(図1)。
世界の肥料需要量は、食糧生産や人口増加を反映して増加傾向にある中、21年に入り、窒素肥料の原料となるアンモニアを作るのに必要な天然ガスの価格が欧州で急騰した。これに加え、新型コロナウイルス禍による供給網制約、中国の輸出制限などにより価格高騰を招いた。ここに肥料大国であるロシアがウクライナに軍事侵攻する危機が加わった。
ロシアのプーチン大統領は22年4月5日、ビデオ会議を通して、海外への食糧供給について「慎重になる」と発言した。食糧と肥料は表裏一体の関係にあり、食糧生産に肥料供給は欠かせない。プーチン氏は保有する肥料を「武器」とみて、その供給については敵対国か友好国かを「踏み絵」にかけようとしている節がある。「プーチンの踏み絵」にかけられる国・地域は、恒常的な肥料輸入国である北米、南アジア、西欧、豪州、アフリカとなる可能性が高い。
畜産コストの過半が飼料
世界の3大穀物といえば、小麦、コメ、トウモロコシを指す。それぞれ生産量が年間8億トン弱、5億トン強(精米)、12億トン弱と他の作物に比べて膨大であるためだ。3大穀物は00年ごろには「6億トン作物」といわれたが、トウモロコシの生産量が倍増しているのは、飼料用需要の急増に対応したものだ。
22年は、小麦とトウモロコシ価格が高騰したのに対し、コメは…
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週刊エコノミスト
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