新規会員は2カ月無料!「年末とくとくキャンペーン」実施中です!

経済・企業 とことん学ぶインフレ 

過去最高水準にある穀物や食肉の価格 背景には輸入拡大を続ける中国の存在がある=柴田明夫

世界の豚肉貿易量のうち約5割を中国による輸入が占める Bloomberg
世界の豚肉貿易量のうち約5割を中国による輸入が占める Bloomberg

今知りたい4 食料高騰 中国「爆買い」と供給不安=柴田明夫

 世界の食料品価格が急激に上昇している。

 国連食糧農業機関(FAO)が毎月発表する食料価格指数(2014~16年平均=100)は21年12月、133・7ポイントと11月からは低下したが、過去最高水準にある。穀物、肉、酪農品、野菜・油糧、砂糖などあらゆる品目が高騰している。新型オミクロン株の感染急拡大で、労働者の移動や物流に目詰まりが生じているのに加え、旺盛な世界需要が背景にある。(とことん学ぶインフレ 特集はこちら)

 米シカゴ穀物市場では、大豆、小麦、トウモロコシ価格が、13~14年以来の高値圏で推移している。中国の輸入拡大が続いており、すでに20~21年の大豆輸入量は1億トンに達し、トウモロコシ2951万トン、小麦1061万トンに達している。

 長期にわたり低迷していた砂糖価格も、主要生産国の干ばつによる供給懸念を背景に、20年4月以降、4年ぶりに上昇に転じている。ちなみに、タイの20~21年の砂糖生産量は757万トンで、前年度の829万トンから2年連続で減少。21~22年は1000万トンに回復する見通しだが、世界最大の砂糖生産国であるブラジルの生産が干ばつにより、3600万トンと、前年度比600万トン強減少する見通しだ。

 食肉価格も上昇している。豚肉は、18年夏以降、中国で蔓延(まんえん)したアフリカ豚熱(ASF)の影響による同国での豚肉生産の急減=輸入急増が価格上昇のきっかけとなった。

「農産物インフレ」再来

 米農務省によると中国の豚肉輸入量(枝肉ベース)は、18年の145万トンから20年には528万トンに急増し、世界の豚肉貿易量の約半分を輸入するようになった。その後は420万トンまで減少したものの、今や日本の145万トンを抜いて、世界最大の豚肉輸入国となっている。牛肉の輸入量も18年の136万トンから22年325万トンと2・3倍に拡大する見通しで、世界貿易の3割強を占める。鶏肉の輸入も拡大傾向にある。

 牛肉価格の上昇は、主要輸出国である米国で消費が急回復する一方、飼料穀物価格の高騰で牛そのものの価格が1年前から約3割上昇していることも要因だ。

 現在の食料品価格の上昇は、10年前の「アグフレーション」(農産物のインフレ)を想起させる。経済のグローバル化で一気に豊かになった人口大国である中国やインド、東南アジア諸国の需要が拡大した結果生じている現象であり、構造的な価格上昇との指摘だった。その後の推移をみると、レーショニング(価格上昇による需要減少)や供給量に拡大の余地もあり、価格はひとまず落ち着いたものの、以前のレベルには戻っていない。今回の「アグフレーション」は、中国などの需要拡大もさることながら、新たにさまざまな供給制約が加わっていることが最大の違いだ。中国の輸入を中心に需要が拡大するなか、供給不安は拭い切れないとすれば、22年の穀物市場は高止まりが続きそうだ。

(柴田明夫、資源・食糧問題研究所代表)

インタビュー

週刊エコノミスト最新号のご案内

週刊エコノミスト最新号

12月3日号

経済学の現在地16 米国分断解消のカギとなる共感 主流派経済学の課題に重なる■安藤大介18 インタビュー 野中 郁次郎 一橋大学名誉教授 「全身全霊で相手に共感し可能となる暗黙知の共有」20 共同体メカニズム 危機の時代にこそ増す必要性 信頼・利他・互恵・徳で活性化 ■大垣 昌夫23 Q&A [目次を見る]

デジタル紙面ビューアーで読む

おすすめ情報

編集部からのおすすめ

最新の注目記事