エネルギー価格高騰が続く欧州 高値解消のカギを握るバイプラインとは=原田大輔
今知りたい1 欧州ガス危機 パイプラインで欧露の反目続く=原田大輔
欧州の天然ガス価格(スポット)は2020年5月、歴史的最安値である1・2ドル(100万BTU=英国熱量単位=当たり)を付けた。そこからたった1年半余りの間に2度も史上最高値を記録し、現在25ドル前後で高止まりを続けている。(とことん学ぶインフレ 特集はこちら)
(1)生産トラブル、(2)コロナウイルスからの急速な需要回復、(3)石炭価格高騰によるエネルギー代替と炭素価格高騰による需要家による天然ガスへの注目──などが複合的に価格を押し上げている。
パイプライン・インフラで欧州に直結し、世界最大のガス供給余力を有するロシアは、高騰する欧州ガス市場に対して即効性のある解決策を提示することができる唯一の国だ。しかし、そのロシアも「反露」であるポーランド・ウクライナ経由のパイプラインについては欧州向けの追加の容量を予約しないという行動に出ている。
国際エネルギー機関(IEA)のビロル事務局長も指摘する通り、「ロシアは欧州に対する供給義務は全て履行している」のだが、追加のガス供給を行うという兆候は見られない。
そこには需要・供給両サイドの事情がある。まず、欧州の需要家は異常高騰した価格では追加のガスを買おうとはしていない。地下貯蔵のガスを引き出し、価格が下降するのを切望している。
ロシアには、21年9月に完成しながら、一部欧州域内諸国の反発によって稼働を止められているガスパイプライン「ノルドストリーム2」を動かしたいという意図がある。吹き荒れるガス価格高騰と需給逼迫(ひっぱく)という「神風」を利用して、欧州に対して稼働に向けたプレッシャーをかけているのだ。
厳冬続けば在庫枯渇
稼働させたいロシア、追加供給により高騰するガス市場を鎮静化させたい欧州の利害が一致し、欧州需要の1割、日本の年間需要量の半分を供給できるノルドストリーム2が稼働すれば、過熱したガス相場を冷ますだろう。
それにもかかわらず、9月の完成後、ドイツ政府および欧州委員会の審査結果を待っている状況が続いている。11月にはドイツ審査機関は同パイプライン事業会社がドイツ法人ではないことを理由に審査を停止しており、稼働時期が遅れる可能性も指摘されている。
高止まりするガス市場だが、冬場の天候が例年より温暖であれば、ガス需要は抑えられ、価格に対して下げ圧力が働く。また、高騰する欧州ガス市場を目指し、米国産液化天然ガス(LNG)が大西洋を越えて供給されれば価格を鎮静化させることも考えられる。
しかし一方で、欧州需要家が現在取り崩している地下貯蔵ガスは現時点で全体量の半分を割っている。寒さが厳しくなりガス需要が増加すれば、3月に向けて地下貯蔵ガス量がショートする不安が市場に募っていき、ガス価格をさらに押し上げる可能性もある。
(原田大輔・石油天然ガス・金属鉱物資源機構 担当調査役)