教養・歴史書評

本に触れる機会の地域差拡大に次善の策を 永江朗

 出版文化産業振興財団(JPIC)の調査によると、全国の26.2%の市町村には新刊書店がないという。2017年に出版取次大手のトーハンが行った調査では24%だった。書店は減り続け、書店のない自治体は増えている。本に触れる環境の格差拡大である。

 しかも地域差がある。JPICの調査によると、沖縄県は56.1%の自治体に書店がない。北海道や長野県、高知県では、書店がゼロか1店舗だけという自治体が70%を超えている。岩波書店や筑摩書房、みすず書房など多くの出版社の創業者を輩出し、「日本の出版王国」とも呼ばれる長野県で51.9%の自治体に書店がないというのが意外だ。

 市町村内に書店があっても、それが誰でも足を運べる場所で営業しているとは限らない。広い駐車場をそなえた郊外型の店舗の場合、自動車がなければ利用するのは難しい。高校生以下の子供たちは、大人に連れていってもらうしかない。学校の帰りに新刊書を立ち読みする楽しみは味わえない。

 01年に約2万1000店あった新刊書店はこの20年で半減した。とりわけ規模の小さな書店が減った。書店が減っている最大の理由は紙の雑誌が売れなくなったことにある。最盛期だった1990年代なかばに比べると、販売金額で約3分の1に、販売部数では4分の1以下にまで縮小した。日本の中小書店は売り上げに占める雑誌の比率が高く、実質的にはブックストアではなくマガジンストアだったから致命的だ。

 紙の雑誌が売れなくなった要因は、社会のデジタル化や人口減少など複雑だが、この流れは不可逆的。そして、書店にとって雑誌の穴を埋める商品を探すのは難しい。ネット販売の送料無料を禁止すれば書店の売り上げが伸びるのではないかという声もあるが、不便を強いて消費者を誘導するのは邪道であるし、むしろ電子書籍の追い風になるだろう。

 本に触れる場を新刊書店中心で考えるのはもう無理だ。これからは公立図書館や学校図書館、古書店、ブックカフェ、コンビニなど、さまざまな施設の組み合わせで読書について考えていくしかないのではないか。


 この欄は「海外出版事情」と隔週で掲載します。


週刊エコノミスト2023年1月10日号掲載

永江朗の出版業界事情 止まらない書店減少に次善の策を

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