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週刊エコノミスト Online ロングインタビュー情熱人

270年前の山車からくりを復元――九代玉屋庄兵衛さん

「50年、100年持つ仕事をしろ、と七代目の父から厳しく教わりました」 筆者撮影
「50年、100年持つ仕事をしろ、と七代目の父から厳しく教わりました」 筆者撮影

からくり人形師 九代玉屋庄兵衛/61

 江戸時代の「茶運び人形」を復元して、大英博物館に展示されるなど、世界的にも注目されるからくり人形。日本のモノ作りの伝統を守るからくり人形師、九代目・玉屋庄兵衛さんに新たな取り組みと変わらぬ職人気質を聞いた。(聞き手=春日井章司・ジャーナリスト)

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「日本が誇るからくりの技術を伝えたい」

── 九代目を襲名して四半世紀。直近では部品が現存し、山車(だし)の上で動く最古のからくり人形を復元して話題になりました。

玉屋 2022年に愛知県半田市の博物館に眠っていた江戸時代中期の270年前に作られた「小烏丸夢之助太刀(こがらすまるゆめのすけだち)」を復元しました。小烏丸は木に登ってくる大蛇を武士が刀で退治する複雑なからくりです。現物は残っておらず、断片的な部品があっただけで、100年以上誰も見たことがありませんでした。どのようなからくりだったのか、調査に2年、製作に1年間をかけました。大蛇が木を登っていく動きが緻密で、試行錯誤しながらようやく完成させました。新たな発見の連続でしたね。

── 特に大変だったのは。

玉屋 最大の見せ場でもある大蛇が高さ2メートルの木をはいながら登るところで、からくりの糸がどうしても途中でひっかかり動きが止まってしまう。そこで糸があたる部分の木の材質を変え、胴体の糸を増やしてみたらスムーズに動き出した。愚直な繰り返しの積み重ねです。でもそれがからくりのおもしろさ。モノ作りの醍醐味(だいごみ)なのです。

「伝統を守りながら臨機応変に。からくり人形の技術は日本のものづくりに生きている」

── 図面は残っていないのですか。

玉屋 からくり人形には図面がないのが一般的です。通常の復元は、現物の人形を見て同じものを作ります。図面より人形を残すことが大事なのです。とくに山車の上に乗せるからくり人形の場合、山車も時代によって作り替えられていくので、山車の上の演じる場所の広さなどを勘案して、人形の寸法を決めます。からくり人形師には現物合わせができる臨機応変な技術が必要なんです。しかも50年、100年持つからくりを作るには丁寧で繊細な仕事が求められます。

修理と復元が主な仕事

 からくり人形は、大きく分けて京都祇園祭のような山車を引く祭りで普及した「山車からくり」と、茶運び人形のように大名や公家などに重宝された歯車とゼンマイで動く精巧な高級玩具「座敷からくり」がある。山車からくりはさらに糸を操って人形を動かす「糸からくり」と、体内の機械仕掛けで人形が動く「離れからくり」がある。 尾張の山車からくりの歴史は江戸時代、1600年代の前半にさかのぼる。地祭りの大衆演劇の幕あいに演じられたからくり人形の見せ物が尾張地方では「家康の東照宮祭」の山車に取り入れられ発展したという。一方、座敷からくりは室町時代に原型が登場している。

── からくり人形師とはどんな仕事ですか。

玉屋 仕事の半分以上が山車からくりの修理と復元です。愛知県には現在も400以上の山車があり、その4割にからくり人形が搭載されています。京都の祇園祭にも毎年参加していますし、伝統的な犬山の祭りや知多の祭りの山車にはすべてにからくり人形が乗っています。祭りが終わると次の年までに補修します。人形師はすべての作業を一人でやります。伝統文化財のからくり人形を修理復元できるのは現在は玉屋だけです。

── からくり人形師の家系に生まれましたが、家業を継ぐのに抵抗はありませんでしたか?

玉屋 私は七代目の三男で、八代目は長男が継ぎました。気ままな私は人形師の仕事には興味がなく、中学を卒業後、自動車関連の会社に勤めたり喫茶店で働いたりしました。ただ機械いじりや工作は好きでしたね。からくりの仕事は24歳の時から父の仕事の手伝いはしていましたが、指導は厳…

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