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教養・歴史 書評

経済成長と格差拡大防止を両立 イノベーションの新たな活用法 評者・土居丈朗

『創造的破壊の力 資本主義を改革する22世紀の国富論』

著者 フィリップ・アギヨン(コレージュ・ド・フランス教授) セリーヌ・アントニン(フランス経済研究所エコノミスト) サイモン・ブネル(フランス国立統計経済研究所シニアエコノミスト) 訳者 村井章子

東洋経済新報社 4620円

「新しい資本主義」を掲げる岸田文雄内閣。新型コロナウイルス禍で顕在化した資本主義の欠点を改めたいという考えに基づいている。本書も着眼点は同じだ。それを踏まえて、論理的にも実証的にも裏付ける形で、一つの解を明快に示したところに本書の高い価値がある。

 本書の主張は、資本主義に勝るシステムを探すよりも、資本主義をより適切に運営すべきであるというものだ。そして、どのような点に留意して運営すべきかも示している。

 本書の題名にある創造的破壊は、資本主義のダイナミズムを象徴する言葉である。創造的破壊は、しばしば、イノベーションと経済成長に結びつけて論じられる。ただ、その際、多くは経済成長に関心が偏って、格差拡大や社会保障、環境破壊という論点がおろそかにされがちである。格差拡大や環境問題にとらわれ過ぎると経済成長が阻害されると懸念する向きがある。

 他方、創造的破壊の負の側面に焦点を当てて、それが格差拡大や環境問題を引き起こすと論じる時、経済成長は置き去りにされる。

 本書は、創造的破壊の力を資本主義の改革に活用し、イノベーションの促進と、格差拡大防止と社会保障制度の整備、そして脱炭素化を一体的に論じており、非常にバランスが取れている。

 地球環境にも配慮したイノベーションを促して経済成長を実現するとともに、起きうる格差拡大に対して社会保障制度で補完する。イノベーションを議論する際に忘れられがちな社会保障制度にも言及している。

 創造的破壊は、失業や地位低下のリスクを高めると懸念される。その点について、本書では考察を加えている。確かに、創造的破壊によって失業や所得減少が起き、その不安から薬やアルコールに依存して健康を害するという現象も観察される。

 他方で、創造的破壊が雇用と成長の見通しを改善することで、むしろ生活満足度が高まる現象も観察される。著者たちは、創造的破壊は必ずしも健康を害するとか幸福を台無しにするとはいえず、社会保障をはじめとする制度環境に大きく左右されると結論づけている。

 本書は、資本主義論の書としても興味深い。しばしば、アメリカ型か北欧型かという分類や、そのうちどちらが良いかという比較がありがちだが、本書は両者の良いところ取りをして「どちらも」を実現できると断じる。フランスの経済学者である著者たちならではの結論ともいえ、立論の奥深さがうかがえる。

(土居丈朗・慶応義塾大学教授)


 Philippe Aghion ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス教授を兼任。

 Céline Antonin コレージュ・ド・フランス・イノベーションラボ兼務。

 Simon Bunel フランス銀行エコノミストを兼任。


週刊エコノミスト2023年2月14日号掲載

『創造的破壊の力 資本主義を改革する22世紀の国富論』 評者・土居丈朗

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