経済・企業

【全文掲載】スペースジェット撤退で泉沢清次・三菱重工業社長が記者会見で話したこと/1(Online編集部)

 三菱航空機が開発を続けていた日本初の国産ジェット旅客機「スペースジェット」(旧MRJ)。15年の歳月をかけたが、2月7日、親会社三菱重工業の泉沢清次社長は開発からの撤退を表明した。エコノミストOnlineでは、同日の記者会見の全文をお届けする。今回は泉沢社長の冒頭発言。次回以降で記者との質疑応答を掲載する。

事業性を見いだせなかった

 スペースジェットに関してのご報告をさせていただきます。

 2020年10月に開発は立ち止まりをさせていただきました。本日の取締役会におきまして、開発の中止を決定しましたので、ご報告させていただきます。

愛知県豊山町の三菱航空機本社にある国産ジェット旅客機の最終組み立て工場。敷地内は閑散としていた(2022年12月27日)
愛知県豊山町の三菱航空機本社にある国産ジェット旅客機の最終組み立て工場。敷地内は閑散としていた(2022年12月27日)

 本プロジェクトに関しては、多くの皆様からご期待、ご支援をいただいておりましたが、今般、開発中止の判断に至りましたこと、大変残念であります。今後はスペースジェットで培いました知見を生かして、引き続き我が国の航空機産業の発展と技術向上に取り組んでいきます。

 開発活動の立ち止まり以降、事業性、持続可能性の面から種々検討を続けてきましたが、開発を再開するに足る事業性を見いだすことができませんでした。

 具体的には四つの面で確認をしてきました。

 まず技術について。機体としては一定の水準の機体を開発できたと評価しています。しかしながら、プロジェクトを開始してすでに時間は経過していて、一部の機能や装備品で最新の技術と比べて、競争力が低下している点は否めません。

 また、数十年にわたる機体の運航を考慮すると、これから投入する機体については、SAF(持続可能な航空燃料)対応や電動化といった脱炭素に向けての選択肢も考慮していく必要があると考えました。この点でも設計の見直しが必要になります。

 製品の製造にあたっては、多くの装備品が海外パートナーからの装備品です。コスト面、納入面で十分な見通しを得ることには至りませんでした。

 顧客・市場について。ご承知の通り、コロナによる市場の混乱がありました。北米ではスコープクローズ(米国の大手航空会社とパイロット組合間の労使協定。地方路線で飛ばせる機体の大きさを制限)の緩和が進まず、現在開発中のM90(90席級の機体)では市場に適合しないということと、コロナ禍によるパイロット不足の影響も受け、リージョナルジェット市場の先行きは不透明と言わざるをえません。

 型式証明の取得についても、先ほどの一部機能の見直しも含めると、期間と資金を必要とするため、事業性を見通すことができなかったということであります。

開発経験者は防衛部門に再配置

 以上の理由から、今般、開発活動の中止を判断しました。

 今後の取り組みについては、完成機については北米を拠点にCRJ事業(買収したカナダ・ボンバルディアの小型機事業)を通じて、海外のお客様との関係維持を図っていきたい。さらにアフターマーケット事業の規模拡大を行い、事業の安定化を図っていきたい。

 次に、培ったエンジニアリング能力については、今後海外OEM(ボーイング、エアバスなどの航空機製造メーカー)との高いレベルのパートナーシップを目指していきます。

 脱炭素化の次世代技術の開発が盛んに行われていますが、当社としても将来の完成機も視野に入れた、次世代技術の開発や、他社との協働検討も考えていきたい。

 また、スペースジェット開発の経験者は防衛分野にも再配置をして、次期戦闘機の開発に活用していきます。

 最後に愛知県にある施設、設備については、今後広く活用できるような拠点になるよう、関係者と相談していきたい。

リソースが不足していた

 スペースジェットの振り返りについて、少しお話しさせていただきたい。

 先ほども述べたように、完成機としては一定の水準の機体が製作でき、型式証明取得のための体制を整えて、3900時間を超える飛行試験を実施できたことは評価できると考えています。

試験飛行を終え県営名古屋空港に着陸する三菱航空機のジェット旅客機スペースジェット(2020年3月18日)
試験飛行を終え県営名古屋空港に着陸する三菱航空機のジェット旅客機スペースジェット(2020年3月18日)

 三菱航空機にとどまらず、関係する皆さんの取り組みには感謝をしたいと思う。また欧米当局との相互認証の協定を締結して、型式証明プロセスを実践できたことは、我が国の航空機産業のプレゼンスの向上にもつながったのではないかと思います。

 スペースジェットの開発を通じて、航空機開発のデジタル化に向けたいろいろな技術情報の獲得など基盤整備もできたと考えています。今後はこれらの技術や知見を他の機種にも生かしていきたいと考えています。

 最後に反省点としては、高度化する民間航空機の型式証明プロセスへの理解が不足していたということは否めません。その結果、開発を通じて、大幅な設計見直しなどが生じてしまい、開発が大幅に遅延をしたことは事実です。

 また、長期にわたり、開発を民間プロジェクトとして継続して実施いくという意味でのリソースが不足していたということも反省点としてあります。

 最後に技術開発において、国からのご支援をいただき、また体制整備などでもご支援をいただきながら、今般、開発の中止に至りましたことは、誠に残念であります。

 しかしながら、今後も引き続き、民間航空機事業に取り組んでまいりますので、よろしくご支援をいただければ幸いです。

>>第2回に続く

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