超低温の氷が生み出す「冷やす」の新常識――廣兼美雄さん
ブランテックインターナショナルCEO 廣兼美雄
不凍液を瞬間凍結する技術を使った「ハイブリッドアイス」で、冷凍・冷却、低温物流の世界を変革する。(聞き手=市川明代・編集部)
超低温の氷「ハイブリッドアイス」を使って、食材などを急速冷凍し、保管し、更に氷から出る冷熱で物や空間を冷やす。この製氷技術を核に、ビジネスを展開しています。
現時点で事業化に成功しているのは、塩水を急速冷凍した塩分濃度23.5%、マイナス21.3度のハイブリッドアイスです。通常、塩分を含む水を冷やすと、液体から固体になる間に塩分を排出し、ほぼ「真水」の状態で凍ります。北極海に浮いている氷がしょっぱくないのは、そういう理由です。当社の氷は、マイナス65度に冷やしたドラム状の金属を回転させ、超高速で塩水を吹きかけることで瞬間的に生成します。正真正銘、塩水でできた「しょっぱい氷」なのです。
ハイブリッドアイスは現在、水産業界で利用されています。マイナス21.3度の塩水氷を、同じ塩分濃度の水と混ぜてスラリー状(シャーベット状)にして生きた魚をつけ込むと、一瞬にして表面が凍結し、巨大なマグロでも7時間あまりで中心部まで凍ってしまいます。通常はマイナス60度の冷凍庫で、2~3日間かかる作業。
従来の冷凍技術では、解凍時にドリップ(液汁)が発生していました。細胞内液と細胞外液の塩分濃度が異なるため凍結時間にズレが生じ、細胞内からの浸透圧と固体化で生じる圧によって、細胞が壊れてしまうのです。ハイブリッドアイスで急速冷凍した魚は細胞が壊れないため、解凍してもうまみが逃げません。
魚の体液とほぼ同じ塩分濃度1%、マイナス1度のハイブリッドアイスも作っています。例えば愛媛県の地域ブランドの養殖スマガツオは、とても傷みやすく、生のままでは大阪まで届けるのが限界でした。ハイブリッドアイスを使うことで、東京・豊洲市場への出荷はもちろん、海外への輸出も可能になりました。
医療分野や物流分野での活用も進みそうです。スラリー状のハイブリッドアイスを容器の壁部に充塡(じゅうてん)すれば、容器内を長時間にわたって低温に保てるため、血液やワクチンの運搬・保管も容易になります。冷蔵・冷凍車のコンテナに利用すれば、エンジンを原動力として庫内を冷やすのと違って、エネルギー量は小さく、二酸化炭素排出量も抑えることができます。
原点は「人工造雪機」
メーカー勤務後、独立して人工造雪機の開発・製造、スキー場経営などに携わりましたが、スキーブームが終わり、ビジネスモデルに限界を感じて撤退。テレビで目にした氷と塩水を混ぜた物質にヒントを得て、人工造雪機の技術を軸に塩水の氷を作れないかと考えました。安定的に塩水氷を製氷する技術を確立するにはさまざまなハードルがありましたが、数年間試行錯誤を重ねてハイブリッドアイスを作り出す機械の開発にこぎ着けました。製氷機は800万~1000万円、プラントは1億円程度と高額ですが、国内外20~30カ所で導入され、量産化も準備中。
全く別の技術を使ってアルコールを凍らせたマイナス160度の氷を作ることにも成功しており、実用化を模索しています。「冷やす」という概念が大きく変わると考えています。
企業概要
事業内容:「ハイブリッドアイス」を使用した冷凍・冷蔵装置、システム等の開発、製造、販売
本社所在地:東京都千代田区
設立:2018年4月
資本金:1億100万円
従業員数:15人
週刊エコノミスト2023年2月21日号掲載
廣兼美雄 ブランテックインターナショナルCEO 超低温の氷で「冷やす」を変える