教養・歴史書評

電線に魅入られた著者の“好き”の力に圧倒される 高部知子

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 私は子供の頃から本が大好きだ。読了冊数を数えることはしないが、それでも常に何か読んでおり、読みたい本がデスクに渋滞している。おそらく本のタイトルも相当数読んできたと思うのだが、本書のようなタイトルは「はて?内容が想像できない?」。とても不思議なタイトルだと思った。

『電線の恋人』(石山蓮華著、平凡社、2090円)。しかも著者は「日本電線工業会公認、電線アンバサダー」という肩書を持っており、私が不勉強なのか「日本電線工業会」という組織も初めて知った。しかし帯書きの「電線は都市の血管であり神経だ!」という文言を読んだ時、がぜん興味が湧いてきた。言われてみれば確かにその通りだ。電線がなければ私たちの生活、都市機能はまったく立ち行かなくなる。それを血管や神経に例えるのかぁ。そしてその血管や神経に「恋をしている」のかぁ。斬新な目線だ。

 著者は都市に張り巡らされた電線に人々の歴史や、より良い暮らしへの願いがみえるのだという。本書には電線の写真や絵画がたくさん掲載されているのだが、眺めているうちに確かに「きれいだな〜」と感じてきた。アートにみえる。電線の束のうねり方、蜘蛛(くも)の巣のような配電ケーブルなどなど。

 当然ながら都市開発力も反映されるため、国によって電線の扱い方は変わる。例えばベトナムでは通信ケーブルが丸く束ねられるそうで、著者はこれがヤシの実に似ていることから、この形状を「南国」と呼んでいるという。また本書のなかで映画「ゴジラ」に見る電線の役割が考察されているのだが、ゴジラが電柱を倒すとあちこちの電線から火花が散り、一瞬にして街は停電、火災が起こる。確かにこの迫力は電線あってこその恐怖だ。

 こうした著者の電線に対する考察、そして電線を擬人化し、そこに自分の感情を重ねる気持ち、わからなくもない。例えば夕方、ポツリと電柱にぶら下がった裸電球の下にジッと人がたたずんでいる…

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