新規会員は2カ月無料!「年末とくとくキャンペーン」実施中です!

国際・政治 日韓関係

韓国・尹大統領の閣議冒頭発言全訳「日本はすでに、数十回にわたり反省と謝罪を表明している」

日韓関係について踏み込んだ発言をした韓国・尹錫悦大統領 Bloomberg
日韓関係について踏み込んだ発言をした韓国・尹錫悦大統領 Bloomberg

 韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領が3月21日の閣議冒頭で語った言葉には驚いた。日本でも報道されたが、「日本はすでに、数十回にわたって私たちに歴史問題での反省と謝罪を表明している」などというものだ。日韓関係の重要性について、多様な観点に立って真正面から力説した。韓国の大統領が日韓関係の重要性を語るのは珍しくないが、ここまで思い切った言葉は聞いたことがない。しかも、徴用工問題の解決策発表とその後の訪日を巡って野党から「屈辱外交」などと猛烈な批判を浴びているタイミングでの発言である。

「豪速球を投げる直球勝負の人で、カーブは投げられない」(政権要人)という尹氏の性格を反映したものだろう。国際会議などへの出席を目的としない、純粋な首脳往来として12年ぶりとなる訪日の成果を誇示し、自らの対日政策について「正しい方向に進んでいる」とまで言い切った。ただ、これだけ踏み込んでも岸田文雄首相からより積極的な「呼応」を引き出せない場合には、野党からの攻撃はさらに激化するだろう。尹氏は気にも留めていないのかもしれないが、岸田首相の対応が注目されるところである。

 閣議冒頭、テレビカメラを入れて23分にわたって続いた尹氏の発言は、最後の2分ほどを除いてすべてが対日政策に関するものだった。韓国メディアが「事実上の国民向け談話だ」と評した発言の全文を紹介する。(澤田克己・毎日新聞論説委員)

<尹錫悦大統領の発言全訳>

「もし私たちが現在と過去を競わせるのなら、必ず未来を逃すことになるだろう」。

 自由に対する強い熱望と不屈のリーダーシップで第二次世界大戦を勝利に導いた英国の首相、ウィンストン・チャーチルの言葉です。

 過去は直視し、記憶しなければなりません。 しかし、過去に足を引っ張られてはいけません。

 この間、韓日関係は悪化の一途をたどってきました。 両国の政府間対話は途絶え、韓日関係は破局の一歩手前で放置されました。

 2011年12月に最後の韓日首脳会談が開かれた後、2015年の慰安婦合意に基づいて日本政府が2016年に資金拠出した「和解・癒やし財団」もわずか2年で解体されました。

 最高裁によって2018年に下された強制徴用事件の判決は、2019年に、日本による半導体素材の輸出規制とホワイトリストからの韓国除外という経済報復につながり、韓国も日本をWTO(世界貿易機関)に提訴し、韓国のホワイトリストから日本を除外するなど、歴史対立が経済対立に発展しました。

 また、私たちは日本と2016年にGSOMIA(軍事情報包括保護協定)を締結しましたが、2019年8月にGSOMIAの終了を発表し、3カ月後に再びこれを保留するなど、韓日の安保協力まで台無しになりました。

 私は昨年5月の大統領就任以来、存在すら不透明になってしまった韓日関係をどうやって正常化させるか悩んできました。まるで、出口のない迷路の中に閉じ込められたような気分でした。

 しかし、手をこまねいて、ただ見ているわけにはいきませんでした。

 日増しに激化する米中の戦略競争、グローバルなサプライチェーンの危機、北朝鮮の核の脅威の高度化など、私たちを取り巻く複合的な危機の中で、韓日協力の必要性はますます強まったからです。

 韓日両国は、歴史的にも、文化的にも、最も親しく交流してきた宿命の隣国関係にあります。

 ドイツとフランスも2度の世界大戦を通じて多くの人命を犠牲に、敵として対峙しましたが、戦後に電撃的な和解をなし、今ではヨーロッパで最も緊密に協力する隣国となりました。

 韓日関係も今や、過去を乗り越えなければなりません。

 友人との間で気まずいことが起きても、関係を絶つのではなしに会い続け、コミュニケーションを取り、話をする。そうすれば誤解が解け、関係が修復される。韓日関係も同じです。

 時には意見の相違が生じても、韓日両国は頻繁に会って意思疎通しながら問題を解決し、協力する道を探っていかなければなりません。

 韓日関係は、一方が多くを得れば他方がそれだけ多く失うゼロサムの関係ではありません。 韓日関係は共に努力して共により多くを得るウィン・ウィンの関係になることができ、また、必ずそうならなければなりません。

 しかし、前任の政権は泥沼に陥った韓日関係をそのまま放置し、その余波で両国の国民と在日同胞が被害を受けて、両国の経済と安保は深刻に反目する状態に陥ってしまいました。

 私もまた、目の前の政治的利益のために楽な道を選び、歴代最悪の韓日関係を放置する大統領になることもできました。

 しかし、昨今の厳しい国際情勢を前に、私まで敵対的な民族主義と反日感情を刺激して国内政治に利用しようとするのなら、大統領としての責務をないがしろにすることだと考えました。

 今回の訪日について、まず韓日両国の経済界が積極的に歓迎し、この間に萎縮した両国の経済交流が再開されるという期待感を持ち始めました。

 今回、日本で会った在日同胞たちも、この間の韓日関係悪化によって苦しんできた困難と苦痛を一挙に払いのけてくれるという期待感で、同胞社会はお祭り騒ぎだと言っていました。

 私は、現在の韓国政府が正しい方向に進んでいるのだと確信しています。

 両国間の不幸な過去の痛みを乗り越え、新たに目指す目標を日本と導き出そうとする努力は、今回が初めてではありません。

 1965年、朴正煕大統領は韓日共同の利益と安全、そして共同の繁栄を模索する新しい時代に入ったとし、韓日国交正常化を推進しました。

 屈辱的で売国的な外交だという激烈な反対世論が巻き起こりましたが、朴大統領は、被害意識と劣等感に取り憑かれ、日本といえば無条件に怖がることこそが、まさに屈辱的な姿勢だと指摘しました。

 そして、韓日国交正常化がどのような結果を生むかは私たちの姿勢と覚悟にかかっているのだと述べ、結局は韓日国交正常化という課題を成し遂げました。

 朴大統領の決意のおかげで、サムスン、現代、LG、ポスコなどの企業が世界的な競争力を備えた企業に成長することができ、これは韓国経済の目覚ましい発展を可能にする原動力となりました。

 その後、浮き沈みを繰り返していた韓日関係の新しい地平を開いたのは1998年の金大中大統領でした。金大統領は日本の小渕首相との首脳会談を通じて「21世紀の新しい韓日パートナーシップ」を宣言しました。

 金大統領は日本訪問での演説で、歴史的に韓国と日本の関係が不幸だったのは、日本が韓国を侵略した(豊臣秀吉による朝鮮出兵の)7年間と植民地支配の35年間だったとし、50年にも満たない不幸な歴史のために1500年にわたる交流と協力の歴史を無意味なものにするのは実に愚かなことだと述べました。

 あわせて金大統領は、1965年の韓日国交正常化以降、飛躍的に増えた両国の交流と協力を通じて必要不可欠なパートナーの関係へと発展した韓日関係を未来志向の関係にしていかなければならない時だとし、両国首脳による宣言が韓日政府間の歴史認識問題にけりをつけ、平和と繁栄に向けた共同の未来を切り開くための礎になると述べました。

 1965年の韓日基本条約と韓日請求権協定は、韓国政府が国民の個人請求権を一括代理して日本の支援金を受け取るとなっています。

 このような考えの下で、歴代政権は強制徴用被害者の方々の痛みを癒やし、相応の補償が行われるように努力してきました。

 1974年に特別法を制定し、8万3519件に対して日本から受け取った請求権資金3億ドルの9.7%に相当する92億ウォンを、2007年に再び特別法を制定し、7万8000人余りに約6500億ウォンをそれぞれ国家予算で補償しました。

 現政権は、1965年の国交正常化当時の合意と2018年の最高裁判決を同時に満たす妥協案として、第3者弁済案を推進することになったのです。

 政府は、強制徴用被害者と遺族の方々の痛みが癒やされるよう最善を尽くします。

 韓国社会には、排他的な民族主義と反日を叫びながら政治的利益を得ようとする勢力が存在します。

 日本はすでに、数十回にわたって私たちに歴史問題での反省と謝罪を表明しています。

 このうち最も代表的なのが、日本が韓国の植民地支配を特に挙げて痛切な反省と心からのおわびを表明した1998年の「金大中・小渕宣言」と2010年の「菅直人談話」です。

 今回の韓日会談で日本政府は、「金大中・小渕宣言」をはじめ、歴史認識に対する歴代内閣の立場を全体として継承していくという立場を明確に表明しました。

 中国の周恩来首相は1972年に日本と発表した国交正常化に関する共同声明(日中共同声明)で、中日両国人民の友好のため日本への賠償要求を放棄するとしました。

 中国人30万人が犠牲になった1937年の南京大虐殺の記憶を忘れたからではないでしょう。

 周首相は「戦争責任は一部の軍国主義勢力にあるのであり、彼らと一般国民を区別しなければならない。だから、一般の日本国民に負担を負わせてはならず、ましてや次世代に賠償責任の苦痛を課したくはない」と述べました。

 国民の皆さん、もう、自信を持って堂々と日本と向き合わねばなりません。

 世界にはばたいて最高の技術と経済力を広め、私たちのデジタル分野での力量と文化面でのソフトパワーを誇り、日本とも協力して善意の競争を繰り広げなければなりません。

 韓日両国の政府はいま、互いが自らを省み、韓日関係の正常化と発展を妨げる諸々の障害を自ら取り除いていく努力をしなければなりません。

 韓国が先に障害を取り除いていけば、必ずや日本も応えてくれるはずです。

 私は今回の1泊2日の訪日中、岸田首相と内閣をはじめ、政界の主要人士と経済界の主だった企業家たちに会いました。

 すべての人が両国関係の改善に伴い、安保、経済、文化など多様な分野で大きなシナジー効果を期待できると話していました。野党も、岸田内閣の韓日関係改善を積極的に支援すると約束しました。

 慶応大学で出会った未来世代の学生たちにも、韓日関係改善への期待に満ちた姿を見ました。

 12年ぶりに行われた今回の訪日首脳会談で、私と岸田首相は、凍てついていた両国関係によって両国の国民が直接・間接に被害を受けてきたという認識を同じくし、韓日関係を速やかに回復させていくことにしました。

 また、韓国と日本は自由、人権、法の支配という普遍的な価値を共有し、安保、経済、グローバルアジェンダにおいて共通の利益を追求する最も近い隣国であり、協力しなければならないパートナーであることを確認しました。

 両国の未来を共に準備しようという国民的な共感に基づき、安保、経済、文化など多様な分野で協力を進めるための議論をさらに加速させます。

 そのために外交、経済当局間の戦略対話をはじめ、両国の共同利益を議論する政府間協議を早急に復元させ、NSC(国家安全保障会議)レベルの「韓日経済安保対話」もまもなく立ち上げます。

 韓国大統領府と日本の首相官邸による経済安保対話は、核心的な技術に関する協力とサプライチェーンなどの主要なイシューで韓日両国の共同利益を増進し、協力を強化する契機になるでしょう。

 また、韓日経済界の協力によって設立される「韓日未来パートナーシップ基金」は、両国の未来世代の相互交流を活性化する上で重要な架け橋となることでしょう。

 今回、日本は半導体素材3品目の輸出規制措置を解除し、韓国はWTO提訴を撤回すると発表しました。 そして、両国が互いのホワイトリストについて(相手国をリストに戻すという)迅速な原状回復に向けて緊密な対話を続けていくことにしました。

 私はまず韓国側から措置を取ることとし、日本をホワイトリストに戻すために必要な法的手続きに着手するよう、本日、産業部長官に指示します。

 韓日関係の改善は、半導体など先端産業分野で韓国企業の持つ優れた製造技術と、日本企業の持つ素材、部品、生産設備に関する競争力を連携させ、安定的なサプライチェーンを構築することにつながります。

 両国企業間のサプライチェーン協力が実現すれば、(ソウル郊外の)龍仁に造成予定の半導体クラスターに、半導体素材と部品、生産設備に関する技術力を持つ日本企業を多く誘致し、世界最高の革新的な先端半導体の拠点とすることができます。

 韓国と日本は、世界1、2位のLNG輸入国です。

 両国が「資源の武器化」に共同で対応すれば、エネルギー安全保障と価格安定に大きく貢献するでしょう。

 LNG分野の協力が深まれば、日本企業からのLNG船受注も増加し、未来の省エネルギー船、水素還元製鉄などに対する共同の研究開発プロジェクトを進めることで、2050年にカーボンニュートラル(を達成するという国際約束の)履行など気候変動にも一緒に対応していけます。

 特に、韓日両国間の経済協力強化は、両国企業がグローバル市場に共同進出する機会を大きく開くでしょう。

 1997年から2021年までの24年間、韓日両国の企業が第3国で進めた共同事業は46カ国で121件、約270兆ウォン規模と推定されます。

 製造や建設、設計について世界最高水準の力量を持つ両国の企業がパートナーとして協力すれば、建設とエネルギーインフラ、スマートシティ・プロジェクトなどのグローバル市場で最高の競争力を持つことができます。

 日本は、経済規模世界3位の市場でもあります。

 韓日関係の改善は、韓国製品全般の日本市場への進出拡大にも寄与するでしょう。

 また、両国間の文化交流が活発化し、日本国民の韓国訪問が増えれば、内需の回復と地域経済の活性化にも大きな助けになるでしょう。

 政府は、経済分野で期待される成果が目に見えるものとなり、国民が実感できるよう、企業間の協力と国民交流を積極的に支援していきます。

 産業、通商、科学技術、金融・外為、文化、観光などの分野で両国の閣僚級によるフォローアップ会議を速やかに開き、半導体、バイオなど核心協力分野の対話チャンネル新設、宇宙・バイオ産業に対する共同支援、産学協力実証拠点の構築、研究開発とスタートアップの共同ファンド造成、陸と空の物流協力などについて、スピード感を持って進めていきます。

 私と岸田総理は、日々高度化する北朝鮮の核・ミサイルの脅威に対応するため、韓米日、韓米(訳注:配布された原稿は「韓米」ではなく「韓日」。読み違えたと思われる)の 安保協力が非常に重要であり、今後も積極的に協力していこうということで意見が一致しました。

 先週木曜日、私が日本に出発する2時間半前に北朝鮮がICBMを発射しました。 私は、韓日間の北朝鮮の核とミサイルに関する完全な情報共有が急務であると判断し、韓日首脳会談で、前提条件なしにGSOMIAを完全に正常化するとまず宣言しました。 これに伴い、国防部と外交部でも必要な法的措置を行いました。

 2019年に韓国が行ったGSOMIA終了宣言と(その後に宣言の効力を停止した)猶予という措置がもたらした制度的な不確実性を確実に取り除くことで、韓米日、韓日の軍事情報協力を強化する足がかりを作りました。

 また、両国のインド太平洋戦略、すなわち韓国の「自由、平和、繁栄のインド太平洋戦略」と日本の「自由で開かれたインド太平洋」の推進過程においても、両国が緊密に連帯し、協力していくことにしました。

 さらに、北東アジアにおける域内対話と協力の活性化のため、韓中日3国首脳会談を再び動かすため共に努力することにしました。

 今後、韓日両首脳は形式にとらわれず、必要ならいつでも会うシャトル外交を通じて積極的に意思疎通を図り、協力していきます。

 今回の訪問を通じた韓日両国の関係改善努力が具体的な成果を挙げ、実を結ぶよう、協力体系の構築と併せて、フォローアップに万全を期してくれるよう各省庁に重ねてお願いします。

 今、私たちは歴史の新たな転換点に立っています。私は、賢明な韓国国民を信じています。

 韓日関係の正常化は結局、韓国国民に新たな自負心を呼び起こし、韓国国民と企業に大きな恩恵をもたらすことでしょう。

 そして何より、未来世代の若者たちに大きな希望とチャンスをもたらすことは明らかです。

(以上。残り2分は、韓国で大きな問題となっている労働時間規制の改革について)

(訳=澤田克己・毎日新聞論説委員)

インタビュー

週刊エコノミスト最新号のご案内

週刊エコノミスト最新号

12月3日号

経済学の現在地16 米国分断解消のカギとなる共感 主流派経済学の課題に重なる■安藤大介18 インタビュー 野中 郁次郎 一橋大学名誉教授 「全身全霊で相手に共感し可能となる暗黙知の共有」20 共同体メカニズム 危機の時代にこそ増す必要性 信頼・利他・互恵・徳で活性化 ■大垣 昌夫23 Q&A [目次を見る]

デジタル紙面ビューアーで読む

おすすめ情報

編集部からのおすすめ

最新の注目記事