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週刊エコノミスト Online 創刊100年特集~Archives

【再掲載・リーマンショック】リーマン、メリル、AIG…ウォール街が震撼 始まった「信用恐慌」 緒方欽一

 
 

(2008年9月30日号に掲載)

2008年、世界的な金融危機となったリーマン・ショック。15年がたった今、米国のシリコンバレー銀行、スイスのクレディ・スイスの破綻などで、世界は再び金融危機に陥るのではないかという不安がよぎる。『週刊エコノミスト』はリーマン・ショックをどのように伝え、分析したのか。当時の記事を再掲載して振り返る。

特集 米国金融崩壊

リーマン・ブラザーズ、AIG、メリルリンチ…。米国を代表する金融機関が相次いで破綻・救済措置に陥り、ウォール街は1929年の大恐慌以来の大パニックに陥った。世界の金融市場に大きな影響をもたらし、株価下落も収まる気配を見せない。最新の状況を追うとともに、この混乱をもたらした犯人の1人といえる「投資銀行」の存在を検証した。(編集部)

 ウォール街を1930年代以来の大激震が襲っている。

 9月15日、経営危機に陥っていたリーマン・ブラザーズが、米連邦破産法11条(日本の民事再生法に相当)の適用を申請。さらにサブプライム問題による資産劣化で苦しんでいたメリルリンチが、米大手銀行のバンク・オブ・アメリカに総額500億ドル(約5兆2000億円)で事実上救済合併されることが決まった。

 16日には、米連邦準備制度理事会(FRB)が米保険最大手のアメリカン・インターナショナル・グループ(AIG)に最大850億ドル(約9兆円)のつなぎ融資を実施すると決定。政府がAIG株の79・9%の購入権を得ることになり、同社は実質政府の管理下に入ることになった。

 
 

「リーマンショック」に揺れたニューヨーク株は15日、前日比504ドル急落と史上6番目の下げ幅で、米同時テロ直後以来の大暴落となった。一方、ロンドン銀行間取引金利(LIBOR)は16日、前週末比で一時約3倍に急上昇するなど短期金融市場で資金を出し渋る動きが広がった。さらに原油価格も一時1バレル=91ドル台にまで下落し、7カ月ぶりの安値をつけるなど、世界中のマネーは一斉にリスク資産から逃げて「安全」へと動いた。FRBや日銀は市場に大量の資金を供給し、なんとかパニックを防ごうとしている。そこまでの措置が必要なのだ。これは、いわば「信用恐慌」の始まりである。

ルービニ教授の「予言」 壊滅の投資銀行

 この大きな波に呑み込まれたのが、米国の投資銀行だ。ゴールドマン・サックス、モルガン・スタンレー、メリル、リーマン、ベア・スターンズの米独立系投資銀行5社は、その存在感から「ウォールストリート」と称されてきた。それが3月に経営破綻したベアに続いて、新たに2社が消滅、もしくは買収される事態となった。18日には、モルスタが米銀ワコビアなどとの合併を検討していることが報じられるなど、その波は残る2社をも襲う勢いだ。

 このような事態を予想していたのが、3年前に米国の住宅バブル崩壊を指摘していたニューヨーク大学のノリエル・ルービニ教授だ。7月にブルームバーグのインタビューで、「米投資銀行4社(ゴールドマン、モルスタ、メリル、リーマン)は破綻するか、もしくは伝統的な商業銀行によって買収されるだろう」と予言していた。ルービニ教授は、その理由の1つとして、資金調達における「脆弱性」を挙げていた。

 その脆弱性とは「担保付きファンディングモデル」である。投資銀行や証券会社が商業銀行と一番異なるのは、預金業務を持たないことだ。銀行にとって預金は低コストで得られる資金。その預金を受け入れることができない投資銀行は、株式や社債、銀行からの借り入れなど、通常の企業と同じ手段で資金を調達することになる。なかでもレポと呼ばれる取引での短期借り入れが最も多い。

 
 

 レポ取引とは買い戻し条件付き売却契約のことで、証券を担保として使った融資である。融資を受けたい側は、保有している証券を銀行などの買い手に売り、証券を1カ月後など将来の一定の日に、一定価格で買い戻す契約を結ぶ。買い戻し価格は当初の売却価格より高く設定され、その差額が融資の金利となる。担保とする証券は、日本では通常国債となるが、米国では株式や資産担保証券(ABS)、住宅ローン担保証券(RMBS)なども含まれる。

 レポによる調達は従来、格付け会社などからは安定した調達手段とみなされてきた。しかし、担保としている証券の価格が安定しているときはいいが、サブプライム問題で価値は下落。追加担保の拠出を求められるなど状況は一変した。それが顕在化したのが、ベアとリーマンの破綻だった。メリルがバンク・オブ・アメリカに救済合併されたり、モルスタも銀行との合併を探る理由には、このような背景がある。

市場が狙う次の標的 来年は200件破綻?

 経営が不安視されている金融機関はまだある。米貯蓄金融機関(S&L)最大手のワシントン・ミューチュアルは預金量で米銀6位の規模だが、サブプライムローンを含む住宅ローンが業務の中心となっているため、業績・財務の悪化が目立っている。株価は足元で2ドル前後まで低迷。クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)のスプレッドは8月下旬から一気に跳ね上がった(図)。

 CDSは企業が倒産して、貸し付けたお金を返してもらえないといった信用リスクを対象とするデリバティブ(金融派生商品)。CDSスプレッドは、保証元本に対する保証料(プレミアム)の割合で、この数字が上昇することは、信用力が低下しているとみられているわけだ。モルスタやゴールドマンのスプレッドも上昇しているのは、「資金調達構造の問題を市場が意識しているから」(松本康宏・新生証券シニアアナリスト)である。

 経営の不安定さが増しているのは、ワシントン・ミューチュアルだけではない。モルスタとの合併が検討されている大手銀行のワコビアもCDSスプレッドが上昇している。4~6月期で87億ドルの最終赤字を計上するなどサブプライム関連損失による業績悪化が深刻だ。さらに米国内では、実体経済の悪化により「年内に20~30、来年は100~200の金融機関が破綻すると予想されている」(中空麻奈・JPモルガン証券クレジット調査部長)。米連邦預金保険公社(FDIC)によると、昨年は3件だった銀行の破綻は今年に入り11件となっている。FDICは、資本や流動性が不足するなど経営の健全性の観点から、6月末時点で117行を「問題リスト」に入れている。投資銀行に続き、商業銀行や地域金融機関が金融システムを揺るがす日はそう遠くないだろう。

欧州、日本、アジアも 株安連鎖止まらず

 リーマンショック後、米政府が公的資金を入れてAIGを救済したにもかかわらず、各国の株価は続落している。欧州では、ロンドン市場で17日、FTSE100指数の終値が4912・4と3年3カ月ぶりに5000を下回った。ドイツ株式指数(DAX)は5860・98とほぼ2年ぶりの安値水準。日経平均は18日の終値が1万1489円30銭と年初来安値を更新。株安はアジア地域にも連鎖し、香港ハンセン指数は一時2年ぶりの安値をつけた。

 金融不安は世界を駆け巡り、株価もどこまで下落していくのか、その先は見えない。

 しかも、下落のトレンドはまだ止まりそうにない。ヘッジファンド動向に詳しい草野グローバルフロンティアの草野豊己代表によると、投資銀行も含めた欧米金融機関は、リスク市場での大きなプレーヤーとなっているヘッジファンドに多額の資金を供給し、“一蓮托生”で市場での存在感を増してきた。だが、金融機関自身が危なくなっているうえに、市場の混乱でヘッジファンドの運用成績も悪化している。ヘッジファンドの淘汰がより進めば、市場の混乱は増してしまう。

 さらに、みなが疑心暗鬼になる信用恐慌の様相を呈してきたことで、投資家は手元流動性を高め、リスク資産へのカネの流れはより細くなる。この流れが止まらない限り、投資家不在の状況は続き、市場にマネーを呼び込むことはできない。

 マーケットにかかった霧はまだ晴れそうにない。

(緒方欽一・編集部)

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