国際・政治

インタビュー「日本の地震支援に深く感謝。新興国の発展へ協力強化を」コルクット・ギュンゲン駐日トルコ大使

 ウクライナ停戦を仲介するなど、国際社会でトルコの存在感が増している。同国経済や世界情勢について、コルクット・ギュンゲン大使に聞いた。(聞き手=稲留正英/荒木涼子・編集部)

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── 2月のトルコ・シリア地震の甚大な被害について、国民の皆さまに心からお悔やみを申し上げ、お見舞いします。引き続き日本から支援ができればと。

■現在も余震が続いている。今回の震災に際し、日本の政府、各市民団体の皆さまには多大なご支援をいただき、深く感謝している。喫緊で最も重要な問題は、衣食住の「住」の部分だ。今回の震災で2万棟以上の建物が崩壊し、65万3000棟が建て替えられる予定で、仮設住宅に加え、衛生環境や冷暖房、水道などのインフラ環境もニーズがある。日本は仮設住宅整備の経験はもちろん、防災技術も含めて深い知識があり、長期的な支援をお願いしたい。

── 経済面では新型コロナウイルス禍においても強い成長が保たれた。最近では、ドローン技術や医薬の分野でも活躍している。

■手元の統計では2022年の実質国内総生産(GDP)成長率は5.6%で、現在の経済規模は世界20位だ。成長の要因は大きく二つあり、一つは国内市場が活発だったことに起因する。特に強いのがサービス産業で、成長率は11%だった。中でも観光はトルコにとって非常に大きな産業で、昨年1年間で欧州や中東を中心に5100万人の観光客を受け入れ、コロナ前の水準に戻った。経済成長のもう一つの柱は工業製品だ。自動車、化学品、繊維、電気電子機器、鉄鋼産業の成長が目立つ。トルコ経済の原動力となっており、輸出でもこれらが大部分を占める。

 ただし、トルコ・日本間の貿易では、実はトルコ全体の輸出構造とは逆で、加工食品を一番多く日本に輸出している。また、日本からの観光客は一時期10万3000人に達したが、昨年は3万人にとどまった。現在、イスタンブールと東京(羽田、成田両空港)の直行便がそれぞれ就航しており、今後は大阪(関西国際空港)の就航も予定している。5月以降がいわゆるサマーシーズンで、ぜひまた観光に訪れてほしい。

防衛産業も成長

── 工業製品が競争力を持ってきた要因は。

■40年前までさかのぼると、トルコ人にとって自国は農業国という印象が強かった。食料自給率が100%を超えていることは、非常に誇りだった。一方この40年で世界が変わったように、トルコも大きく変わった。多くの国々の市場に自由にアクセスできるようになった。特に1980年代からの市場の自由化政策が工業製品を後押しした部分もあったと思う。

 加えて、近年では防衛産業についても開発や投資が活発だ。バイカル社のドローンは、ウクライナ戦争において戦術的な有効性を示した。ドローン以外にも、初の国産戦闘機が滑走試験で成功するなど、防衛産業は成長している。

── ウクライナ戦争では、ロシアとウクライナの停戦を仲介するなど、国際社会での存在感も高まっている。トルコとして世界情勢をどう見ているか。

■コロナ禍を経たロシアとウクライナの戦争は、世界経済にも大きなダメージを与えた。世界規模での経済の停滞が発生したが、このような環境でも、後ろ向きになってはいけない。2月の大地震は国内のトルコ経済に打撃を与えるが、一方で世界に目を向けたとき、トルコが既に築いてきたさまざまな国との経済的つながり、特にEU(欧州連合)諸国との結びつきは非常に強みになる。

 そしてG7(主要7カ国)やG20(主要20カ国・地域)の国々が世界全体の経済の原動力を生み出しているが、一方で、これらの国の動きだけに目を向けるのは間違いだ。世界各国が安定的な成長をしていくことが、我々トルコも含めG20やG7の国々にとっても非常に重要なことだ。

 この観点から日本との関係をみると、経済的つながりは観光分野から医療分野まで、そして防衛産業、防災・耐震技術などさまざまな技術において関係が構築できると思っている。

 加えて、教育面も非常に重要な役割を果たす。日本へは、修士や博士課程を中心に留学生として学んでいる若者が多くいる。彼らは2国間の協力関係で非常に重要な役割を果たすだろう。イスタンブールでは、トルコ日本科学技術大学も開学に向けて準備しており、非常に期待している。

戦争は容認できず

── G7やG20の国々だけでなく、新興国や途上国といった、いわゆる「グローバルサウス」とも呼ばれている国々とも、安定的に成長できるよう、共に支援が必要という考えか。

■もちろんそうだ。それは日本も優先事項としていると考えている。共通の目標に向け共に何ができるか、日本との会談の機会がある度に、第三国での協業については、常に話題として上がるテーマだ。例えば建設業ではトルコと日本の企業が第三国で協業し、特に中央アジアや中東の国々で成功を収めてきた。今後はアフリカにも拡大していきたい。日本はアフリカ開発会議(TICAD)という取り組みがあるが、トルコとしてもTICADを重視し、民間企業もTICADから生まれる新たな投資機会を模索している。

── トルコは欧州とアジアという東西、さらに北半球と南半球という南北の国々のエネルギーをつなぐ要衝だ。脱炭素という世界共通の課題についてはどう見るか。

■トルコは欧州のエネルギー安全保障にとり重要な位置を占めており、特に今回の戦争が生み出した新しい状況を鑑みると、重要性は高まっている。そして我々も日本と同じく、(地球温暖化防止を目指す)パリ協定を批准している。水力発電や風力、太陽光発電などを用いており、(国内の発電量のうち)54%が再生可能エネルギーだ。新しい原発も完成した。日本とは今後、エネルギーの効率化と蓄電の分野で、特に協力を強化していきたい。

── ウクライナ情勢では、ロシア・ウクライナ両国の和平に向けて積極的に動いている。日本も協力できることはあるか。

■まず和平への取り組みでは、黒海にウクライナ産の穀物を輸送する「穀物回廊」の設置に尽力してきた。国際社会、特に国連の後押しが非常に大きかった。

 トルコとしては、今後もウクライナ、ロシア両国との対話を続けていく。そして和平構築に向け、何ができるか模索し続ける。今起こっていることは、トルコとして決して容認できることではない。

 日本とも、岸田文雄首相とエルドアン大統領や外相同士の会合で、やはりロシア・ウクライナのことが議題として多く上がった。互いの国の取り組みについて機会あるごとに情報共有しており、これは今後も続くだろう。


 ■人物略歴

Korkut Güngen

1989年にトルコ・アンカラ大学政治学部を卒業、外務省入省。2013~17年に駐エクアドル大使。18年、外務省多国間政務局長。21年3月15日付で駐日大使として着任し、同年5月27日に信任状を捧呈。


週刊エコノミスト2023年4月11・18日号掲載

世界経済入門 インタビュー コルクット・ギュンゲン 駐日トルコ大使

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