経済・企業 ドイツEV最前線
ミュンヘン―ベルリン間600キロの電気代はガソリン車より安い1万400円だった/2
ドイツの最新電気自動車(EV)事情を報告する連載の第2回では、最新EVの消費電力や現地の充電インフラについて報告したい。
アウディ「e-tron GT」のアウトバーンでの電費は1キロワット時=3キロ
4月15日(土)の早朝、アウディのスポーツカー「e-tron GT」で、ミュンヘンからインゴルシュタットの少し先にあるアウトバーン「A9」のサービスエリアにある急速充電施設まで片道80キロ、往復で160キロ走行した。週末の早朝のため、もちろん、渋滞は一切ない。電費は、結論から言うと、時速120~160キロ程度の走行が主体なら、1キロワット時=2.98キロであった。ただ、時速200キロを超える走行が続くと、電費は1キロワット時=2.55キロまで悪化した。
e-tron GTのバッテリー容量は93.4キロワット時、正味容量で86.5キロワット時だ。満充電の航続距離はWTLC表示で534キロ。534キロ÷86.5キロワット時で、1キロワット時=6.17キロが公式の電費となる。しかし、アウトバーンで高速巡行すると、その半分の3キロが実力という感覚だった。
それではEVの電気代はガソリン車に比べて高いのか、安いのか。為替レートを1ユーロ=147円として試算する。
最大出力350キロワット時の急速充電器「アイオニティ」
ここで、ミュンヘンから首都ベルリンまでの600キロをアウトバーンで移動したと仮定してみる。e-tron GTの電費を1キロワット時=3キロと仮定すると、電力消費量は600キロ÷3キロ=200キロワット時。高速のサービスエリアにある最大出力350キロワット時のIONITY(アイオニティ)の急速充電器の料金は、通常は1キロワット時=0.79ユーロ(116円)だ。しかし、アウディの提供する「e-tron チャージングサービス」に月額14.99ユーロ(2204円)を払い加入すると、1キロワット時=0.35ユーロ(52円)に割引される。その場合、200キロワット時×53円=1万400円が、ベルリンまでの電気代となる。
ガソリン車ならベルリンまでのガソリン代は1万6860円
一方、e-tron GTに相当するガソリンエンジンのスポーツカーを時速200キロ台も織り交ぜ、高速で走らせた時の燃費を1リットル=10キロと仮定する。その場合、ガソリンの消費量は600キロ÷10キロ=60リットル。現地にあるガソリンスタンド「トタル」で確認したところ、日本のハイオクに相当するガソリンの価格は1リットル=1.91ユーロ(281円)。60リットル×281円=1万6860円となる計算だ。燃費を1リットル=8キロともう少し厳しく見た場合は、600キロ÷8キロ×281円=2万1075円となる。
一方、e-tron GTを時速200キロを超えるスピードで連続走行した場合は、600キロ÷2.55キロ×52円=1万2235円まで電気代は増えるが、それでも、ガソリン車よりは安い。
自宅の太陽光を利用ならEVの電気代は6000円まで削減
日本に向かう帰りの飛行機では、実際にEVを所有しているドイツ人のビジネスマンと隣り合わせになったが、「EVの電気代の方が、確実にガソリン代より安い」と話していた。彼の家では、太陽光発電を導入しているので、普段は充電のための電気代がゼロであることも大きいという。仮に、自宅の太陽光で、e-tron GTを充電できるなら、最初の86.5キロワット時分はタダなので、ベルリンまでの電気代は(200−86.5キロワット時)×52円=5902円に減る。
ベルリン到達には200キロ毎に計2回充電必要
さて、EVを走らせるには航続距離も重要だ。e-tron GTをアウトバーンで走らせた場合は、満充電の航続距離は正味電池容量86.5キロワット時×電費3キロ=260キロが目安となる。ベルリンに到着するには、200キロ地点と400キロ地点で計2回、充電する必要がある。アイオニティの実用出力を200キロワット時と想定すれば、18分間で60キロワット時、距離にして180キロ分(60キロワット時×3キロ)の充電ができる。
ミュンヘンを満充電(航続距離260キロ)で出発し、200キロごとに20分程度、充電のための休憩を取れば(260+180+180=620キロ)、航続距離を20キロ残して(620−600キロ)、ベルリンに到達できる計算だ。
充電残量10%→80%の所要時間は20分
アウディによると、この後に紹介するニュルンベルグの大型充電施設「アウディ・チャージングハブ」の320キロワット時の急速充電器を使った場合、e-tron GTは充電残量10%の状態から80%まで充電するのに20分かかるという。この時の充電量は86.5キロワット時×70%=60キロワット時であり、私の計算と整合する。
確かにEVはガソリン車に比べ航続距離が短く、充電の手間はある。だが、エンジン音と振動がないことによる高速での静粛性の高さ、また、応答速度の速さ(エンジン車の100ミリ秒〈0.1秒〉に対し、EVは1ミリ秒〈0.001秒〉)から来る加減速の自在さは、一度経験すると、後戻りできない。世界の高級車カテゴリーでEV化が進み、トヨタのレクサスも全面EV化に踏み切る背景がよく分かる。
アイオニティは欧州に1900基設置、25年には5500基に
さて、アイオニティの使い勝手はどうだったのか。アイオニティは独フォルクスワーゲン、BMW、ダイムラー、米フォード・モーター、韓国ヒョンデらが2017年に設立した急速充電の合弁会社で、欧州に最大出力350キロワット時の超高速充電器を高速道路沿いに1900基設置している。25年までにこの数を5500基まで増やす計画だ。50キロワット時が大半の日本のチャデモ急速充電器と比べ、出力は実に7倍だ。
私が利用したA9のサービスエリア「A9 Köschinger Forst West」には6基の350キロワット時の充電器が設置されている。高速を挟んで反対側のサービスエリア「A9 Köschinger Forst Ost」にも同様に6基の350キロワット時のアイオニティ充電器が置いてある。
使い方はいたって簡単だ。まず、車を前から、駐車スペースに止める。なぜなら、e-tron GTの充電口は、右前方のフェンダーに内蔵されているからだ。充電口は、欧州で標準的な「コンボCCS」タイプである。充電口の蓋は押すと開き、カギは不要だ。ただ、車のドアのカギは開けておく必要がある。
充電開始はICカードをかざすだけ
その後は、充電器の前に行き、ICカードの読み取り機で、「アウディチャージングサービス」のカードをかざすと、充電がスタンバイになる。あとは、上からぶら下がった充電ケーブルを引き出し、車の充電口に差し込むと、自動的に充電が始まる。
アイオニティは800ボルトの高圧で電気を供給できる。もちろん、車側でその高圧に対応している必要があるが、e-tron GTはポルシェと共同開発したEV専用の車台「J1パフォーマンスプラットフォーム」を使っており800ボルトで充電可能だ。
ここで、電気の単位について、簡単な説明が必要だろう。ボルト(V、電圧)は電気を押し出す力、アンペア(A、電流)は電気の流れる量、ワット(W、電力)は消費される電気エネルギーを示す。ボルト×アンペア=ワットだ。水道のホースとバケツを思い浮かべれば分かりやすい。ボルトは水圧、アンペアはホースの太さ、ワットはバケツに入る水の量だ。水圧が高いほど、ホースが太いほど、バケツに水が溜まるのに要する時間は短くなる。ワット時(Wh、電力量)とは、1時間当たりに消費する(貯まる)電力のことだ。キロワット時=1000ワット時である。
アイオニティとe-tron GTは800ボルト充電に対応
今回の充電では、電池残量52%の状態で764ボルト×284アンペア=217キロワットで充電が始まり、83%になった14分後には809ボルト×72アンペア=58キロワットまで出力は落ちた。充電量は14分間で29.779キロワット時であった。
「18分で60キロワット時充電できるはずではないのか」と読者からツッコミが入りそうだが、これには理由がある。充電量が80%を超えると、急速に充電速度が落ちるのだ。人が満腹に近づけば、食べるスピードが落ちるのと同じ理屈だ。正確には電池を保護するためだ。それ以上、充電するのは時間がかかる。だから、ドイツのEVドライバーは家の外の急速充電器では通常80%までしか充電しない。
今回も仮に、電池残量が10%の状態で充電すれば、18分間でおそらく60キロワット時は充電できるはずだ。
充電を止めるには、充電器本体の液晶画面の右側にある「STOP」ボタンを押せば良い。料金は恐らく月額でのクレジットカードや銀行口座からの決済と思われる。
ガソリンスタンドの充電器の出力はアイオニティの半分
この日はアイオニティを使う前に、サービスエリア「A9 Köschinger Forst West」から南に6キロほど、高速の外にあるガソリンスタンド「トタル」に設置された急速充電器も使ってみた。こちらの出力は175キロワット時とアイオニティの半分だ。充電残量14%の状態から56%まで、14分間充電した。その間、出力は173→151キロワットとほとんど低下しなかった。やはり、充電残量が80%未満であれば、出力は制限されないのであろう。
こちらの充電料金は1キロワット時=0.79ユーロ。アウディの料金表を見ると、月額会員になっても、値段は0.79ユーロと割引はない。だから、緊急時以外、あまり使う必要がなさそうだ。ただ、こちらは充電口がCCSのほか日本の「チャデモ」もある二口タイプだった。
充電器20台! 壮観だったテスラの大型充電施設
なお、このガソリンスタンドのすぐ横に、テスラの充電施設があった。テスラの専用充電器「スーパーチャージャー」が計20基設置してあった。欧州では、日本と違い、テスラの充電器も充電口はCCSを使っているので、アウディのEVもテスラの充電器をアダプター不要で使える。充電しているのはテスラの「モデルS」1台だけであったが、20基の充電器が並ぶ様子は壮観であった。
今回のドイツ取材の目玉であるニュルンベルグの大型充電施設「アウディ・チャージングハブ」についても紹介したかったのだが、ここで紙幅が尽きた。連載3回目に詳しく報告したい。
(稲留正英・編集部)