経済・企業

100%再エネで充電しながらラウンジでくつろぐ――アウディ・チャージングハブは都市型充電を探る実証実験施設だった/3

ニュルンベルグにある「アウディ・チャージングハブ」。画面下左側が2階の休憩所に上る階段
ニュルンベルグにある「アウディ・チャージングハブ」。画面下左側が2階の休憩所に上る階段

 ドイツの最新EV事情を探る連載の3回目。取材2日目の4月14日(金)に訪れたのが独南部のニュルンベルグにあるアウディの大型充電施設「アウディ・チャージングハブ」である。6台のEVが、最大320キロワット時で充電できるほか、充電中にドライバーが快適に過ごせる休憩所とラウンジがあるのが特徴だ。

>>「ドイツEV最前線」第1回はこちら

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ドイツにも集合住宅の「充電難民」

 土地の広いドイツと言えども、マンションやアパートに住み、自宅に充電設備がないEVオーナーもいる。そうしたEVユーザーにどのような充電インフラを提供すべきか。ドライバーに実際に使ってもらい、その行動パターンを把握し、EV時代の都市型充電のあり方を探るのがこの施設の第一の目的だ。つまり、実証実験施設である。

 それとともに、使用済みバッテリーの再利用、太陽光と風力による100%の再生可能エネルギー(再エネ)の使用と環境に配慮した設計とした。「サステナビリティ(持続可能性)」を走行性能、デザインと並ぶブランドの柱としたい、アウディの情報発信拠点ともなっている。

アウディ・チャージングハブはニュルンベルグの国際展示場(画面奥)に隣接する
アウディ・チャージングハブはニュルンベルグの国際展示場(画面奥)に隣接する

年140万人が訪れる国際展示場に隣接

 場所は、ニュルンベルグの国際展示場のすぐ横にある。国際展示場には年間140万人が訪れ、その来場者の利用も見込まれる。また、アウディの本社があるインゴルシュタットからアウトバーンA9号で北に約90キロの位置にある。インゴルシュタットの人口が14万人なのに対し、ニュルンベルグは52万人で適度に人口が多いことも、設置場所に選ばれた理由だ。

 施設は2階建てで、1階部分は充電器と蓄電施設、2階にはテラスを備えた200平方メートルの休憩所とラウンジがある。

6台分の駐車スペース、最大出力は320キロワット時

 建物は四角形で、1階部分の3面に計6台分の駐車スペースがある。1面に二つの充電器があり2台同時に充電が可能だ。施設全体の最大出力は960キロワット時。各面で最大320キロワット時が供給できるが、2台同時に充電の場合は一台当たり160キロワット時に制限される。

チャージングハブは1階部分に充電施設がある
チャージングハブは1階部分に充電施設がある

EVユーザーなら誰でも利用可能

 この充電器はEVユーザーなら、ブランドにかかわらず誰でも使うことができる。米テスラでもベンツでも、韓国ヒョンデでも構わない。最大充電時間は30分だ。その間、2階の休憩所で待つことができる。木のベンチが置かれているほか、トイレとコーヒーや飲料、菓子類の自動販売機、無料Wi-Fiがある。施設は24時間営業だ。

休憩所には10時から19時までスタッフが常駐する
休憩所には10時から19時までスタッフが常駐する

 2階の休憩所には毎日10時から19時の間、365日間、顧客対応のスタッフが常駐し、充電器の使用方法を教えたり、充電ができないなどのトラブル時の対応をする。このスタッフは、さまざまなブランドのユーザーと接することで、EVユーザーの行動パターンについて情報収集する役割も持つ。

休憩所にはコーヒーやスナックの自動販売機がある
休憩所にはコーヒーやスナックの自動販売機がある

2021年12月の開業以来、充電回数は1万2520回

 今回、施設の説明をしてくれたピルツさんによると、「21年12月21日の開業から23年4月14日までの間に計1万2520回の充電があった」という。開業当初の利用者は1日25人だったが、直近では36人に増えている。一番多かったのは、昨年のイースターの初日(22年4月17日)で90人が訪れた。ドイツではイースターの週は休みとなり、休暇を取るために長距離を走るユーザーが充電に訪れるのだという。

チャージングハブのラウンジはアウディユーザー専用
チャージングハブのラウンジはアウディユーザー専用

利用者の半分がアウディオーナー

 1万2520回のユーザーの内訳は、アウディ52%、VWグループ(VW、ポルシェ、シュコダ、クプラなど)が16%、残りがメルセデス、ヒョンデ、テスラとなる。

 アウディの施設なので、もちろん、アウディユーザーには特典がある。月額7.99ユーロ(1175円)を払って「アウディe-tronチャージングサービス」に加入すると、1キロワット時=35セント(52円)の優遇価格で充電できる。他のユーザーは自分が加入する充電サービスの外部充電料金(メルセデスの「Mercedes Me Charge」会員の場合、1キロワット時=55~65セント〈81~88円〉)を払う必要がある。

2階のラウンジ部分には40平方㍍のバルコニーもある
2階のラウンジ部分には40平方㍍のバルコニーもある

アウディオーナーにはラウンジ利用の特典も

 また、アウディのスマホアプリで、充電場所を予約することができる。予約すると駐車スペースに埋め込まれたバーが立ち上がり、他の車両は止めることができなくなる。予約したアウディ車が施設に近づくとカメラがナンバープレートを読み取り、バーが自動的に下がる仕組みだ。

アウディユーザーがスマホで充電を予約するとバーが立ち上がり場所を確保
アウディユーザーがスマホで充電を予約するとバーが立ち上がり場所を確保

 さらに、2階の休憩所の奥にあるアウディユーザー専用のラウンジを利用できる。中には居心地の良さそうなソファ、子供の遊具、オンライン会議などに使える個室、40平方メートルのバルコニーがある。アウディユーザーはアプリでドアを開錠するための暗証番号を入手し、24時間入室できる。アウディの22年6月の発表によると、この施設の利用者の60%がリピーターという。

バッテリーが空なほど、充電スピードは速く

 ピルツさんは、「EVはバッテリーが空であるほど、早く充電できます」と強調する。私が試乗したe-tron GTの場合、「通常は電池残量10%から80%までは20分で充電可能」(ピルツさん)。だから、「たいていのe-tron GTユーザーや、ポルシェのタイカンのドライバーは20~25分の充電で済まします」。逆に、80%を超えると急激に充電スピードが落ち、80%から100%までに20分かかり、時間の無駄という。

 もちろん、顧客の中には、例えば90%以上充電したい人もいる。ただ、その場合でも、他に顧客が充電待ちをしている場合には、事情を話して、譲ってもらうようにしているという。「ドイツのEVドライバーはとてもフレンドリーなので、話せば理解してもらえます」

施設内にはシェア方式の電動スクーターも

 ピルツさん自身は2017年からEVを運転している。「充電量が10%に減っても50キロは走れ、その間に大概、充電器を見つけることができるので、心配する必要はありません。私の彼女はアイフォーンの電池が20%に減るとそわそわしますが(笑)」

今回説明してくれたピルツさん。自身も2017年からEVに乗る
今回説明してくれたピルツさん。自身も2017年からEVに乗る

 施設内には通常の駐車スペースもたくさんあり、長時間滞在したい顧客はそこに自動車を移動すれば、2階の休憩所やラウンジを使い続けられる。

 施設にはシェア方式の電動スクーター「Voi」が置いてあり、展示会場や市内への行き来に利用できる。交換バッテリープロバイダーである「Swobbee」のバッテリー交換施設もあり、Voiの利用者はその場で電池を交換できる。

1階の倉庫部分には2450キロワット時の蓄電池

 1階の倉庫部分には「キューブ」と呼ばれるコンテナ状の蓄電装置が四つ入っている。三つが各525キロワット時の容量で、各面に駐車したEVへの充電に使われる。四つ目のキューブは875キロワット時の容量があり、これは、屋根に配置された太陽光パネルや系統(電力会社)から購入する風力発電の電気を貯めるために使う。四つのキューブの合計容量は2.45メガワット時(2450キロワット時)。キューブにはアウディの開発車両から回収した使用済みバッテリーが計927個使われている。「Q8 e-tron 55」の電池26~27台分という。これまで、回収したバッテリーは100%リサイクルに回していたが、このチャージングハブで再利用することで、リサイクル8%、リユース92%の割合になったという。リユースの方がリサイクルよりコストは安いので、コスト全体の低減にもつながっている。

倉庫の内部にはコンテナ状の蓄電装置「キューブ」がある
倉庫の内部にはコンテナ状の蓄電装置「キューブ」がある

屋上には太陽光パネル、蓄電池活用で高額な受電施設が不要

 屋上に設置された太陽光パネルの最大出力は22キロワット時、また、系統からは200キロワット時の風力発電由来の電気を得ており、最大222キロワット時の入力がある。

 通常、急速充電器を設置するには、系統の高圧電線から電気を受けるための受電施設(キュービクル)が必要で、これが、急速充電施設の設置コストを引き上げる原因になっている。しかし、この施設では家庭並みの200キロワットの低電圧で蓄電池に充電するため、高額な受電施設が不要だ。また、このことが、チャージングハブの設置場所の自由度につながっている。「キューブ」は運搬にも便利なため、5週間あれば、ニュルンベルグと同様の施設を別の場所に建設できるという。筆者はピルツさんに建設コストを聞いたが、「実証実験」が施設の主目的であり、ベンチャーキャピタルから資金を調達しているとして、教えてもらえなかった。

チャージングハブの蓄電施設にはテスト車両の使用済みバッテリーが使われている
チャージングハブの蓄電施設にはテスト車両の使用済みバッテリーが使われている

東京には今年の後半にオープン

 実証実験段階なので、設置場所により施設の形態は異なるそうだ。スイスのチューリッヒに開設した施設は、二つの蓄電キューブと屋根付きの四つの充電ポイントからなる。ウエブで写真を見る限りは平屋で、休憩室はない。今年4月に設置したばかりのベルリンの施設も同様の形だが、スーパーマーケットに隣接している。今後は、5月末にオーストリアのザルツブルグ、そして、ミュンヘンにも設置される。東京には、今年の後半にチャージングハブが開設される予定だ。

 次回は、1909年の創業から100年以上自動車を作りづづける、アウディの「意外な歴史」について解説したい。

(稲留正英・編集部)

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