読書で旅する仏&伊 還暦過ぎての冒険に感銘 美村里江
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仕事大好き人間であるが、それでも半年以上仕事や準備が続いて都内の家を離れられない、となるとなんとなく閉塞(へいそく)感がある。感染症の脅威が消えて無くなったわけではないが、社会に日常が戻りつつある「コロナ明け」の気配が、あちこちに満ちているせいもあるだろうか。どこか旅へ出たい気持ちが強い。
こんな時こそ読書である。折よく入手した『巴里(パリ)うたものがたり』(水原紫苑著、春陽堂書店、2090円)。
「冥土の土産」という表現は冗談にしても、40年前の学生時代を初回とし、前回の渡仏からも30年ぶり。還暦を過ぎての渡仏留学は著者にとって大冒険である。
80日の日記エッセーに挟まれる新作短歌119首からも、精神の充足や人生の味わいが伝わってきて大変楽しい気持ちになった。日記なので日々の食事なども書かれ、食いしん坊的にも満足である。
しかし、ただの旅や留学ではない根底もある。両親と恋人、愛犬を相次いで見送り、奮起するため計画した渡仏はコロナ禍で延期。その後、主治医の許可を得て思い切って飛び立ったという経緯なのだ。
「日本にいる時、灼けつくように孤独だったのが、今は微塵も感じられないのはなぜだろう」という言葉が染みる。癒やしたのは憧れの街パリか、新体験の日々か。著者は英語に加え仏語やギリシャ語を操るので、使う脳の部分が違うことも良かったのかもしれない。ここで一首。黄昏のひかりに泛(う)かむひとびとの輪郭美(くは)し季節おとろへ
東京へ戻る飛行機の中でした「ひとつの決心」はまだ秘密とのことだが、明かされる日は来るだろうか。
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フランスに続いて『イタリア暮らし』(内田洋子著、集英社インターナショナル、1980円)。いつも私が新刊を楽しみにしているこの著者は、在伊40年、コロナ禍では日本からイタリアを眺めていたそうだ。
記者として見聞きしたイタリアの話、自身の暮らしの中での体験や…
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週刊エコノミスト
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