ウクライナ人女性監督が描く第2次大戦下の崇高な人間愛 野島孝一
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映画 キャロル・オブ・ザ・ベル 家族の絆を奏でる詩(うた)
これは、第二次世界大戦中のポーランドで歴史に翻弄(ほんろう)された家族を描いたウクライナ人監督の作品だが、その家族が暮らしていた町そのものが、ポーランド領から現在はウクライナ領に変わっている。ウクライナの西北部で、ポーランドとの国境に近いイバノフランコフスクという場所なのだが、その呼び名もイヴァーノ=フランキーウシクとするものもあり、外国の地名を日本語にするのは、本当に難しい。
1939年1月、まだポーランドのスタニスラヴフと呼ばれていた、この町のユダヤ人家族の持ち家に、ポーランド人の軍人家族と、ウクライナ人の音楽家一家が引っ越してくる。ウクライナ人の主婦ソフィアはピアノを弾き、子どもたちに歌を教えた。ユダヤ人、ポーランド人、ウクライナ人家族には、それぞれに娘がいる。なかでもソフィアの娘は声がよく、クリスマスによく歌われる「キャロル・オブ・ザ・ベル」が得意。やがてこの家から娘たちの合唱が聞こえるようになった。
その年の9月、ドイツ軍がポーランドに侵攻、第二次世界大戦が始まる。独ソ秘密協定によってソ連軍がこの町を占領。ポーランド人一家は、父親が出撃し、留守のところにソ連軍兵士がやってきて、母親を連行する。母親は娘をソフィアに預け、戻ってこなかった。
41年になると、ソ連に代わってドイツ軍が、この地を支配する。ドイツ軍によって今度はユダヤ人夫婦が収容所に入れられた。ユダヤ人も娘をソフィアに託す。ソフィアは、ユダヤ人の娘をドイ…
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週刊エコノミスト
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