週刊エコノミスト Onlineロングインタビュー情熱人

国を追われた人を助け続ける――松沢秀延さん

在日クルド人の小学生に渡すため支援者が寄付したランドセルについて説明する松沢秀延さん 撮影=武市公孝
在日クルド人の小学生に渡すため支援者が寄付したランドセルについて説明する松沢秀延さん 撮影=武市公孝

「在日クルド人と共に」理事 松沢秀延/84

「国を持たない最大の民族」とも呼ばれるクルド人を、時には私財もはたいて長く支援し続ける人がいる。埼玉県の松沢秀延さん。その思いや原動力に迫った。(聞き手=谷道健太・編集部)

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「日本に貢献する意欲ある人に在留資格を」

── 在日クルド人を支援する埼玉県蕨市の任意団体「在日クルド人と共に」(略称HEVAL=クルド語で「友達」)で理事を務めています。どんな活動をしているのですか。

松沢 会員に寄付してもらった中古ランドセルをクルド人の小学生に渡しているほか、大学生などのボランティアに毎週日曜日、蕨市の施設でクルド人約60人に日本語を教えてもらったりする講座を運営しています。クルド人への医療費支援もしています。在留資格がない人たちの多くは公的健康保険に加入できず、医療費の全額を自己負担せざるを得ないからです。

── 運営資金はどう確保?

松沢 「赤い羽根共同募金」を運営する社会福祉法人などからの助成金や、趣旨に賛同してくれた方が納める会費や寄付金などです。2022年は600万円以上の資金を得られました。寄付してくれた方の中には、クルド人への医療費支援に使途を限定して多額の寄付をしてくれた30代のブラジル人男性がいます。以前、日本でつらい思いをしたことがあり、テレビで見た私たちの活動に共感して寄付してくれたそうです。

── クルド人が在留資格を得るのは難しいんでしょうか。

松沢 在日クルド人の中には日本人と結婚したり、解体業やレストランを自営したりして在留資格を取った人もいます。しかし、それ以外の多くの人は、迫害から逃れてたどり着いた日本で暮らしていくため、難民として認定するように日本政府に求めています。しかし、政府の認定基準は国際的にみても非常に厳しいんですよ。政府が今まで難民として認定したクルド人(トルコ国籍)は1人しかいません(22年)。

 トルコやイラン、イラク、シリアなどにまたがる山岳地帯に住み、「国を持たない世界最大の民族」とも呼ばれるクルド人。その人口は3500万~4500万人とも推定され(パリ・クルド研究所、16年)、このうちトルコが最多の4割を占める。列強の利害が絡み合う中で国境線が引かれ、それぞれの国で少数民族として差別や迫害にも遭ってきた。住んでいた地域を離れて難民となる人も少なくない。

川口・蕨は日本国内最大のコミュニティー

── 日本にはどれぐらいのクルド人が住んでいるのですか。

松沢 二千数百人といわれます。そのうち、埼玉県川口市や蕨市を中心に、トルコ出身のクルド人が2000人ほど暮らしています。その大半はトルコで迫害を受けて移り住んだ人たちで、国内でも最大のクルド人コミュニティーになっています。たまたま1990年前後、川口市や蕨市に住むようになったクルド人を頼って親族や友人が来日し、人口が増えたようです。

── 法務省出入国在留管理庁(入管)が難民として認定しない場合、申請者はどうなるのですか。

松沢 まず、前提として、入管の立場からみると、在留期間を超えて日本に住む外国人は「不法残留者」です。見つけ次第、「日本では滞在を認めない」「帰国しなさい」と命じます。しかし、クルド人にとって帰国は命にかかわるから拒むしかありません。すると、入管は収容所(茨城県牛久市の東日本入国管理センターなど)に送るわけです。

 入管法上、難民認定を申請中の人を強制送還しないことになっていますが、不認定になった人には再び強制送還を命令します。帰国すると迫害を受ける可能性が高い人は、難民認定の申請を繰り返すしかないのです。入管は人道上の理由などで、いったん収容した人を一時的に「仮放免」する制度を設けています。難民認定申請中の子どもにも仮放免という扱いになる人がいます。ただ、仮放免にもいろいろ制約があって……。

── どんな制約なんでしょうか。

松沢 一部の子どもは「仮滞在」という扱いを受け、住民登録できて公的健康保険に加入できますが、仮放免の人は一切できません。住んでいる県からよその県に出かけるにも入管の許可が必要なんです。進学をしたい仮放免中の高校生が志望校に相談すると、「卒業しても就職できないから」と言われ、受験すら難しいこともあるんですよ。中学3年生から「一緒に学校に行ってほしい」と頼まれて三者面談に立ち会うと、担任教師から「高校進学は諦めて」と言われたこともあります。

── それは厳しいですね……。

松沢 私がかつて個人的に学費を支援した仮放免中の4人の子どものうち、大学に入学した子とその妹については、(法相が在留資格を特例的に認める)「在留特別許可」を求めて提訴し、最終的に留学生向けの在留資格を得られました。他の2人も訴訟を起こし、在留資格を手にしています。いずれも卒業後に…

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