教養・歴史ロングインタビュー情熱人

世界体験の場を30年間――高野孝子さん

「冒険家になりたかったというよりは、自然な流れでした」 撮影=武市公孝
「冒険家になりたかったというよりは、自然な流れでした」 撮影=武市公孝

NPO法人「エコプラス」代表理事 高野孝子/81

 北極海横断など世界各地を冒険してきた高野孝子さん。同時に力を注いできたのが、「ひと」「自然」「異文化」をテーマに、さまざまな体験や学びの場を提供する活動だ。活動が30周年の節目を迎えた今、その思いを聞いた。(聞き手=大宮知信・ジャーナリスト)

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── 代表理事を務めるNPO法人「エコプラス」(東京都千代田区)の設立30周年を記念したイベント「知恵と体験の大バザール」を昨年11月、都内で開催しました。ちょっと変わったネーミングですね。

高野 会場のホールには約70人、海外の人を含めオンラインでは30人近くが参加しました。一方的に記念講演会をやるのではなく、あえて“バザール”という言い方をして、今まで関わってきた人や心ある人たちが集まって交流する形を取りました。30年を映像で振り返った後、それから「バザールタイム」に移ります。

 バザールタイムでは三つのブースに分かれ、それぞれ3人ずつが自分はどんなことをしているかを発表し合います。質疑の中では世代も経験も違う人たちがさまざまなやり取りをし、新しい発想が生まれたりしていました。中には、合気道の実技を披露する人がいたりして、面白かったですよ。

── 参加者それぞれが何らかのヒントを得て、新たな活動につなげていくということですか。

高野 すでに何かをやっていたり、やろうという気持ちがあったりする人たちばかりです。子ども食堂をやっている人もいるし、都会から田舎に移住した話をする人もいる。単に情報を得るということだけじゃなくて、自分の生き方や仕事の中で、お互いに刺激し合ったり、元気をもらったり、ということでしょうか。

── 高野さんはどんなことを話したのですか。

高野 私はあまり前に出ない方がいいと考えて、「私たちは『ひと』『自然』『異文化』を柱にいろいろな活動を続け、いつ、その意味がなくなっていくのかと思っていたけれど、それどころかますます大事になってきています」と一言、あいさつをしました。参加者の皆さんが高揚した表情で帰られたので、イベントはうまくいったと思っています。

アマゾンから北極海まで

── エコプラスではさまざまなイベントや体験学習のプログラムを提供しています。毎年恒例の「雪ざんまいキャンプ」というプログラムを、今年も3月21~24日、出身地の新潟県南魚沼市で開催しました。今年は大学生4人が参加したそうですが、どんなことをやるんですか。

高野 寒さというのは、人間にとって一番ハードルが高い。時には命を落とす危険もある。地元で暮らす人たちに教わりながら、そういうところでも、ちゃんと豊かに暮らせるというのを体験してもらうんです。雪の中でテントを張って野営し、飲み水に使えるきれいな雪を探したり、雪の上でトイレを作ったり。差し入れのシカ肉で鍋を作り、夜は雪の上に寝転がって満天の星を楽しむこともできました。

 雪は水でもあり空中から降ってきて直接口に入るものだから、汚染されていたら飲めないですよね。これも循環の一部なので、私たちが出したゴミもどうやったら有機的に戻せるか、ということを考えます。道具を持ち込まなくても、あるものを工夫するだけで、雪の上でも寝ることができる。自分の既成概念が変わると、自分を乗り越える体験にもなるし、いろいろな気付きが得られたり、次の知恵が広がったりします。

「ひと」「自然」「異文化」への理解を深める体験や学びの活動を展開するエコプラス。1992年に任意団体「エコクラブ」を設立し、2003年にNPO法人となった。原動力となっているのは、高野さん自身が世界各地を冒険してきた経験。89年に友人と南米のアマゾン川1500キロをカヌーで下ったのを皮切りに、91年にはソ連(当時)の女性極地探検隊と一緒にベーリング海峡をスキーで横断。95年には4カ国の冒険家5人で5カ月をかけ、ロシアからカナダまで動力に頼らず犬ぞりなどで北極海を横断した。

── もともと冒険家になりたかったのですか。

高野 うーん、それをやろうと思ってやったというよりは、自分としては自然な流れでした。86年に早稲田大学を卒業して大学院に進学した後、イギリスに本部を置く「オペレーション・ローリー」という青少年育成を目的とした団体が冒険プログラムの参加者を募集していて、私も応募したんです。その冒険プログラムのオーストラリア遠征に3カ月参加して、自然の中で生きていく知恵や工夫を学んだり、その後バックパックで1人で旅行したりしていました。

── 89年に大学院を卒業後、英字紙のジャパンタイムズ社に入社しますが、1年半で辞めてしまいました。

高野 すぐ辞めることになったのは、南極点まで女性だけで歩いて行くという国際的な事業があり、3人ぐらいの候補者の中に私…

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