小説、民芸品店の先に――ねじめ正一さん
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詩人、作家 ねじめ正一/83
直木賞受賞作の小説『高円寺純情商店街』をはじめ詩人・作家として活動してきたねじめ正一さん。店主をしていた「ねじめ民芸店」を2019年に閉店した今、力を入れて取り組んでいるのが絵本の執筆だ。(聞き手=大宮知信・ジャーナリスト)
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「絵本にはスリリングな部分がすごく大事」
── 昨年5月にハードカバーで出した絵本『ゆかしたのワニ』(福音館書店)が好評で、すでに6刷になっていますね。「ぼくんちのゆかしたにはワニがいて」という書き出しがシュールで、大人が読んでも面白いですね。
ねじめ 何で床下にワニがいるんだという、本当はそこに説明がないといけないと思うんだけど(笑)。でも、それを説明したら面白くなくなっちゃうんだよね。少年がワニの歯磨きをするために口の中に入っていくわけですが、少年に歯磨きをしてもらいながら、「この子どもを食いてえな」というワニの本能がふと見える瞬間がある。子どもはそういう恐怖感を覚えながら、歯磨きをしなければいけない勇気もあり、相当スリリングな部分がある。それがすごく大事かなと。
── スリリングだけれど、少年とワニの間に奇妙な友情もあったりして、気持ちが和みます。ワニがくしゃみをすると、少年がワニに巨大なマスクをしてあげたり……。
ねじめ そうそう。その場面で終わるんですが、新型コロナウイルス禍の前に作った絵本だったんです。絵本が出た後、コロナになっちゃった。絵本の中では、ワニと少年の感情がピタッと重なる瞬間があるんだよね。その2人が秘密を共有できる場面でもあり、それがないと絵本ってつまらない。だから、絵本は感覚的にではなくて、確信的に作らないといけないんです。
── お孫さんもいるんですよね。絵本は読んであげるんですか。
ねじめ 3人います。孫と遊ぶと刺激を受けることが多いですよ。絵本を読んであげたりしたこともあるけれど、僕は本当の絵本の読み方を分かっていなかった。とにかく早口で最後まで一気に読んでいたんですが、子どもはポカーンとしてね。「前に戻って読んで」というんです。それで、戻って読んだら「もっと前」だと。時間をかけてちょっとずつ前に進んでいくのは、実際に孫に読み聞かせをするようになって分かったことです。
「言葉は2割。あとの8割は絵」
── ストーリーもさることながら、繊細かつほのぼのとした絵がいいですね。
ねじめ やっぱり、コマツシンヤさんという絵描きさんが面白かったね。若い絵描きさんで、高知県から出ない人なんです。コツコツと自分が納得いくまで描くと言っていた。時間がかかったけどね。それが良かったと思います。絵本では言葉の力って2割程度。あとの8割は絵ですね。いかに文章とぶつかり合わずに上手に裏切ってくれるか、その裏切り方が絵描きさんの才能で、これは一緒に組んでみなければ分かりません。
高円寺北口商店街(東京都杉並区)の乾物店の長男として生まれたねじめさん。1981年に詩集『ふ』(櫓人出版会)で第31回H氏賞を受賞したほか、89年には初の小説『高円寺純情商店街』(新潮社)が第101回直木賞を受賞するなど詩人・作家として名を知られるが、早くから絵本作りにも取り組んでいる。『あーちゃんちはパンやさん』(福音館書店、86年)を手始めに、手掛けた絵本はこれまでに50冊を超える。
── 詩を書き始めたのは中学校の時、先生に勧められたのがきっかけだそうですね。
ねじめ なぜ向いていると言われたのか分かりませんが、そのころから詩を書いていた記憶があります。僕は乾物屋の息子だったので、毎日自分ばかり店番させられて嫌だなとか、中学生の日常的な悲哀を書いていました(笑)。もう1人、詩を書くことを勧められたやつがいて、2人で毎日詩を書いたり同人誌を出したり。それが作詞家の門谷憲二という人で、布施明さんの「君は薔薇より美しい」という曲の詞を書いています。
── 青山学院大学を中退していますが、なぜ? 学生運動にのめり込んだとか?
ねじめ いやいや、そうじゃない。自分を変えなきゃいけないという認識もあったんですけど、全然学校に行ってないんですよ。青学の経済学部へ行ったんだけど、大学へ入った途端に、おやじが脳出血で倒れちゃって、おやじが始めた民芸店を僕がやらざるを得なくなったんです。あのころは大学へ行かないと、自然と除籍になるんですね。除籍になっていたことも知らず、エロ映画とかストリップばかり見に行ってましたよ、アハハハ。
詩的な『高円寺純情商店街』
── 81年3月に初の詩集『ふ』がH氏賞を受賞しました。
ねじめ それも中学生の時の延長で、店番をしている自虐的な詩です。25、26歳にもなって、まだこんなことをやっているのか、お前がやることはないのか、というような。『高円寺純情商店街』でも、例…
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週刊エコノミスト
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