イラン政府に製作を禁じられたパナヒ監督が国境の村でつむいだ困難な戦いの物語 芝山幹郎
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映画 熊は、いない
ジャファル・パナヒが、ジャファル・パナヒの役を演じている。パナヒは、イランの映画監督だ。1960年に生まれ、名匠アッバス・キアロスタミの助監督を務めたのち、「白い風船」(95年)や「オフサイド・ガールズ」(2006年)を監督して広く名を知られた。
そんな彼が2010年、「イラン国家の安全を脅かした」として、20年間の映画製作禁止とイランからの出国禁止を言い渡されたことは周知の事実だ。
それでもパナヒは、映画を撮り続けている。必要は発明の母という成句を地で行くかのように、さまざまな技法や手段を駆使して、彼は発信をやめない。
「熊は、いない」は、そんな映画作家の最新作だ。彼自身が扮するパナヒは、トルコ国境にほど近いイランの小さな村で部屋を借り、小型のPCを使って、映画をリモート演出している。
撮っているのは、フランスへの亡命を図る男女のドキュメンタリーで、撮影場所はトルコ東部の小さな町だ。ただ、亡命計画は順調には運ばない。男女の間柄も、ぎくしゃくしはじめる。
一方のパナヒは、村人の日常生活にスティル・キャメラを向けたばかりに、思いがけない災難に巻き込まれる。この村には、女子は生まれてすぐに婚約者を決められてしまうという恐るべき因習があったのだが、パナヒは、ある娘が、定められた男以外の男と会っている姿を、偶然撮ってしまったかもしれないのだ。その写真を見せろ、と村人たちは迫る。撮っていない、とパナヒは彼らを撥(は)ねつける。
ふたつの話を統括する監督パナヒは、メタフィク…
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週刊エコノミスト
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