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インタビュー「女たちはこうして立ち上がった」ブレイディみかこ
女性たちの闘いを描いた小説『R・E・S・P・E・C・T リスペクト』を8月に出したブレイディみかこさんに話をうかがった。(聞き手=北條一浩・編集部)
2014年、英国ロンドンで実際に起きた事件をモデルに書かれた小説『R・E・S・P・E・C・T』。地方自治体の予算削減という名目でホームレス・シェルターから追い出されようとしていたシングルマザーたちが立ち上がり、占拠運動を展開する物語だ。
「反対運動というのはたいてい党派などのバックボーンがあるものですが、この占拠は、運動のウの字も知らないシングルマザー、しかもホームレスという社会的に最も弱い立場の人々が立ち上がった点に特徴があります。やがて当該地域の区長が『ガーディアン』誌に公式に謝罪文を掲載するような事態にまで発展しました」
日本ではまったくといっていいほど報道されなかったこの事件。ブレイディさんはヤフーニュースに「政治を変えるのはワーキングクラスの女たち」と題した文章を書き、これは著書『ヨーロッパ・コーリング』(岩波書店)に収録されている。そして今回の本。今回はなぜフィクションなのだろうか。
「空き家の占拠=スクウォッティングという文化は日本にはほとんどないので、ドキュメンタリーとして書くと、どこか遠い国の一部の過激な人の話になって読まれないと思ったんです。私は興味を持って楽しく、ワクワク読みながら同時にこの事実を知ってほしかったので、実際にはこの事件に日本人はまったく関与していないのに、小説では2人の日本人をあえて入れました」
女性を鼓舞する歌
最初のページでこの占拠事件の概略が簡潔に紹介され、「都市において、低所得の人々が住んでいた地域が再開発され、おしゃれで小ぎれいな町に生まれ変わること」として「ジェントリフィケーション(gentrification)」という言葉=概念が示される。
「ロンドンは12年にオリンピックを開催しましたが、オリンピックを招致するのは国を宣伝したい、投資を集めたいからですよね。それで小ぎれいにするために再開発が激化する。日本もいまちょうどオリンピックの2年後ですから、10年前のロンドンと重なる印象があります。でも再開発って、観光客誘致のビジネス戦略の点からいってもマイナスだと思いませんか? 似たようなビル街やショッピングモールだらけになって、誰がそんな国にわざわざ来てくれるでしょうか」
さて、そして実に印象的なこのタイトルについてうかがおう。
「リスペクトはむろん、アレサ・フランクリンのあの歌から来ていますが、もともとはオーティス・レディングが書いた曲で、そこでは“家に帰ったオレを尊敬しろよ”と男性目線になっています。それを数年後にアレサが、“家に帰ったら、私を尊敬して”と書き換えました。と同時にオーティスの歌には無い部分があって、『アール、イー、エス』つまり『R・E・S・P・E・C・T』とまるでタンカを切るように歌う部分があるんです。ここが女性たちを鼓舞してくれて、みんなで熱唱すると最高! そんな思いをタイトルに込めました」
互いが互いをリスペクトできる社会とはなんだろうか。本書をぜひ、男性にも読んでほしい。
■人物略歴
ブレイディみかこ
英国ブライトン在住。著書に『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』『両手にトカレフ』など。ここに紹介した小説『リスペクト R・E・S・P・E・C・T』が最新刊。
週刊エコノミスト2023年10月3日号掲載
ブレイディみかこ 「女たちはこうして立ち上がった」