「危険に出会わせない」AIシステムを開発――西口真央さん
oneroots代表取締役社長/CEO 西口真央
良い情報を届けると同時にSNS上での危険回避にも努める。それがAI事業者の使命だ。
(聞き手=北條一浩・編集部)
AI(人工知能)を有効活用して、社会貢献とビジネスにつなげる事業を行っています。会社名のonerootsとは、どんな課題も一つの根(ワンルーツ)につながっており、一緒に解決していきましょう、といった意味です。
主な事業が二つあります。まず「Recoro」(レコロ)は、弊社独自のデータ分析力とAI技術でユーザーが最適の選択をできるようにする推薦システムです。例えば複数店舗を持つ大手食品小売店にRecoroを導入し、来店する個別の顧客ごとにAIが推薦するリストに基づいて実際に店のスタッフがオススメすると、オススメしなかった顧客に比べ顧客単価の上昇、特に購入金額の高い顧客は大幅な上昇が見られました。つまり、顧客と商品の最高の「出会い」を支援できたことになります。実験的に行ったこの推薦を、今後全店舗、全顧客に向けて行ったと仮定すると、月額3100万円の売り上げ増が期待できるという試算も出ています。
もう一つが「Patroots」(パトルーツ)。これはパトロールと会社名を掛けています。こちらはRecoroとは逆で、SNSなどでの危険な出会いを防ぐ「出会わせない」ための技術です。
SNS上で「家出をしました」と書いたり、「死にたい」とつぶやく女性がいるとしましょう。我々がネットワーク分析すると、そうした女性が100人いたら、周囲にはおよそ2000人の男が群がっていることが判明しました。彼らは女性にメッセージを送ったり、チャットで会話したりします。こうした怪しい男たちと実際に対面することになったら、どうなってしまうかわかりません。弊社はSNSを運営する事業者にこうした出会いを未然に防ぐAIシステムの導入を勧めています。当社のシステムを使い、SNS事業者がこうした女性たちに注意喚起したところ、自分の写真を送るとか、電話番号を教えてしまうような危ない行動は、約15%程度、減らすことに成功しました。
大学発のビジネスの種を育成
私は東京大学の研究員だった頃にプロジェクトを始め、それを事業化するために会社を興しました。研究を始めた頃、神奈川県座間市の9人殺害事件をはじめ、犯罪にSNSを使った事件が連続して起き、時代に対する危機感が事業化の背中を押したことは間違いありません。
SNSは、あらゆる情報が入手でき、誰とでも出会えるいっぽうで、安全な場所にいた人にもいつ何が起きるかわからない負の側面も生みました。私は「素晴らしい出会いの支援」ばかりでなく、「出会わせない」ことにも注力すべきだと考えました。出会わせる技術があれば出会わせないこともできるはずです。
私は現在も非常勤研究員として東京大学に通っています。計算社会科学者の鳥海不二夫先生に技術顧問になってもらい、先生の所に来る「こんなシステムを開発してほしい」といった依頼を受け、大学発のビジネスの種を育てる活動もしています。AI技術に携わる事業者として、今後も最適のマッチングと危険回避、この「出会いと別れ」の両面から活動を続けていきます。
企業概要
事業内容:AIに関するソフトウエア、アルゴリズムの開発・運営、およびデータ分析、データ利活用のコンサルティング
本社所在地:東京都中野区
設立:2021年7月
資本金:100万円
従業員数:10人
週刊エコノミスト2023年11月7日号掲載
西口真央 oneroots代表取締役社長/CEO 「危険に出会わせない」AIシステムを開発