教養・歴史書評

世界はいかにして豊かになったか 多角的に持続的経済成長を分析 評者・原田泰

『「経済成長」の起源 豊かな国、停滞する国、貧しい国』

著者 マーク・コヤマ(ジョージ・メイソン大学准教授) ジャレド・ルービン(チャップマン大学教授) 訳者 秋山勝

草思社 3740円

 1700年代以前、世界の一部地域で一時的な成長が生じたことはあったが、持続的な成長はなかった。

 本書は、18世紀以降、世界がどのように豊かになってきたかについて五つの理由を挙げ、それらが、持続的成長を説明できるかどうかを議論している。紙幅の関係から、評者は五つの理由のうち、 制度、文化、人口についてだけ紹介したい。

 制度については、法の支配と財産権の保護が必要だとしているが、そもそもなぜそのような制度を持ちえたのだろうか。民主主義は、人々のさまざまな意見交換を促し、幅広い経済ニーズに対応することができる。これは経済発展に資する制度だろうが、民主主義は特定の社会に固有の文化なのだろうか。

 固有の文化だとすると、一度発展に親和的でない文化が形成されれば発展は不可能になる気がする。

 次に本書がいう人口とは、マルサス的圧力のことである。所得が増えれば人口が増え、人口が増えれば所得の増分は人口増に奪われる。人類は、1人当たりでは、決して豊かにはなれないという陰鬱な議論である。マルサスの罠(わな)を脱却しなければ、人類は豊かになれない。

 これら世界が豊かになった理由をもって、なぜ成長が1700年代の北西ヨーロッパで起きたのかを説明できるだろうか。豊かだったイタリアやオランダは、商人貴族が、自分たちの地位を強固にするために、貿易や産業に参入障壁を作り出し、そのせいで逆に挫折した。一方、イギリスには、権力を制約する代議制、大規模な国内経済、大西洋経済圏へのアクセス、高度な技術を持つ大勢の機械労働者、高い賃金と安い石炭があった。そして高い賃金が、イギリスでもアメリカでも技術革新を起こしたと著者は言うのだが、これは因果関係が逆で、技術革新があったから賃金が高くなったのではないか。

 イギリスが豊かになるとともに、ヨーロッパや、アメリカなどのイギリスの派生国も豊かになった。文化的類似性により、制度と技術を取り入れることが容易だったからだろう。しかし、それ以外の国のキャッチアップは遅れた。日本が切り開いた経済成長は、アジアに伝播(でんぱ)する。その過程は、キャッチアップが単純なものではないことを示している。

 持続的な経済成長という現象を理論的観点から整理し、イギリスから始まった経済成長を分析し、世界がどのように豊かになったのかを本書は明らかにする。疑問に思う点もあったが、この壮大な物語を見事に描いた、学ぶことの多い著作である。

(原田泰・名古屋商科大学ビジネススクール教授)


 Mark Koyama オックスフォード大学で経済学の博士号取得。マーカタス・センター上級研究員。

 Jared Rubin バージニア大学卒業。スタンフォード大学で博士号取得。経済発展史、宗教学が専門。


週刊エコノミスト2023年11月14日号掲載

Book Review 『「経済成長」の起源 豊かな国、停滞する国、貧しい国』 評者・原田泰

インタビュー

週刊エコノミスト最新号のご案内

週刊エコノミスト最新号

4月30日・5月7日合併号

崖っぷち中国14 今年は3%成長も。コロナ失政と産業高度化に失敗した習近平■柯隆17 米中スマホ競争 アップル販売24%減 ファーウェイがシェア逆転■高口康太18 習近平体制 「経済司令塔」不在の危うさ 側近は忖度と忠誠合戦に終始■斎藤尚登20 国潮熱 コスメやスマホの国産品販売増 排外主義を強め「 [目次を見る]

デジタル紙面ビューアーで読む

おすすめ情報

編集部からのおすすめ

最新の注目記事