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教養・歴史 書評

消費者動向の把握に有効な「物価指数」を包括的に解説 評者・土居丈朗

『物価指数概論 指数・集計理論への招待』

著者 阿部修人(一橋大学経済研究所教授)

日本評論社 4840円

 昨年来の物価上昇で、消費者物価上昇率が改めて注目されている。消費者物価指数は、ドイツの経済学者ラスパイレスが開発した指数算式を基に指数化されている。基準時に購入した品目・数量の構成が変わらないと仮定して、調査時に購入した場合の価格の変化を表している。

 本書は、物価指数の成り立ちや特徴、そしてそれらの含意について、包括的に解説した書である。物価動向に顕著な変化がみられる時期を迎えている今、そしてこれまでは使えなかった小売店舗の詳細な販売データなどのビッグデータが活用できるようになった今だからこそ、指数がどのように計算され、どのような意味を持つのかを理解することが、ますます重要になっている。

 消費者物価指数は、基準時に購入した品目・数量の構成が変わらないと仮定して算出されている。ただ、当然ながら、新型コロナウイルス禍で消費者の嗜好(しこう)も変わるし、価格の変化に伴い購入数量も変化する。マスクの需要は感染拡大期には急増したが、着用が任意となると急減した。値上げされると買い控える商品もあれば、引き続き買い続ける商品もある。そうした消費者行動の変化に即した指数も、本書では紹介されている。

 現に、日本の統計ではGDP(国内総生産)デフレーターの算出には、「連鎖指数」という算出方式が用いられている。連鎖指数だと、商品が各時点で次々と入れ替わっても、その影響を比較的軽減できる。本書では、そうした指数間の定義の差異を踏まえながら、物価動向の裏側に潜む経済要因にも迫っている。

 物価指数は日本経済の世界における地位にも影響を与える。IMF(国際通貨基金)の見通しによると、日本のGDPは今年、ドイツに抜かれて世界第4位になるという。ただ、これは直近の円・ドルレートで換算した名目ドルベースのGDPであって、「購買力平価」ベースのGDPでは、日本はまだドイツよりも大きい。この差をどう理解すればよいだろうか。

 本書では、2国間の名目為替レートでは、価値が高い通貨で価値が低い通貨の国の物価を測ると、後者の国の物価が過小評価される傾向があることを指摘する。それを克服すべく開発されたのが購買力平価で、2国間の購買力(通貨1単位で購入できる財・サービスの量)が等しくなるように決まる理論上の為替レートである。

 本書は物価指数を多角的に解説しており、含蓄が深い書である。

(土居丈朗・慶応義塾大学教授)


 あべ・なおひと 1969年生まれ。一橋大学経済学部卒。エール大学大学院博士課程修了、Ph.D(経済学)。マクロ経済学が専門。著書に『家計消費の経済分析』がある。


週刊エコノミスト2023年12月19日号掲載

『物価指数概論 指数・集計理論への招待』 評者・土居丈朗

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