コメから社会の必要に応える――雑賀慶二さん
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東洋ライス社長 雑賀慶二/100
日本で当たり前のように食されている精米後のコメ。その精米の過程で、いかにおいしく栄養たっぷりにできるか、環境負荷を減らせるかに情熱を注ぎ込んできた。(聞き手=大宮知信・ジャーナリスト)
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── 東洋ライス(和歌山市)は精米機メーカーであり、独自の精米製法によるコメも販売していますが、コメの研究にも力を入れていますね。2022年8月には国立遺伝学研究所との共同研究の成果を発表しました。
雑賀 玄米が持っている未知の成分候補が発見されました。それも、コメにしかない成分候補です。例えば、ビタミンB1など一般に知られている栄養素は、コメだけではなくさまざまな食品に含まれています。ところが、今まで知られていなかった成分候補はコメにしかなく、しかも白米にはほとんどない。その成分候補が五つもあることが分かったんです。
── コメには分かっていないことがまだたくさんあるんですね。
雑賀 そうなんです。また、玄米には「モミラクトン」という抗菌活性物質があることも分かりました。抗糖尿病や抗腫瘍などの健康効果が示唆されている成分で、イネの根とか葉、もみがらに含まれていることが知られています。こうした成分は白米に精製される過程で、大半が失われてしまいます。五つが分かった成分候補については、これからさらに研究を詰めていこうと思っています。
── 玄米は健康にいいといわれますが、食べ続けるのが難しいイメージがあります。
雑賀 要するに、おコメは毎日食べるものだから、まずいと続かないんですよ。けれど、おいしくすると栄養素がなくなってしまう。私はもともと体が弱く、ある時、玄米食を始めたのですが、3日しか持たなかった。これじゃいかんと五分づきにすると、玄米よりは食べやすいけれど、とにかくまずい。七分づき、八分づき、九分づきとやり、これならおいしいから毎日食べられるというのが十分づきでした。結局、普通の白米ですわ。
── 結局、元に戻ってしまったわけですか。
雑賀 戻っちゃった。でもその時に思ってね。栄養素が含まれるぬかを残すと、栄養素は残るけれども、食べたらまずい。おいしくしようとすると、栄養素はなくなる。この二律背反の問題を解決しようと研究を進め、ようやく2005年にできたのが「金芽(きんめ)米」です。玄米のぬかは残っているけど、おいしい。それを私が実験台になって食べたんです(笑)。
多くの人が日常的に食べる白米は、茶色の玄米からロウ層、ヌカ層、亜糊粉(あこふん)層を取り除いたデンプン層だ。「金芽米」は東洋ライス独自の精米技術によって、栄養とうまみ成分を含む亜糊粉層を残したもの。15年には玄米からロウ層を除いた「金芽ロウカット玄米」も製品化した。精米機メーカーによる自社ブランドの商品化は異例だったが、いまや各地の小売店で取り扱われ、同社の主力事業の一つに成長した。
「石抜き機」を自力開発
── 雑賀さんは地元の中学校を卒業後、家業だった精米機の販売会社に入り、26歳だった61年、コメに交じる石ころを取り除く「石抜き機」を発明して、大ヒットします。子どものころからモノを改良したり、道具を使いやすく工夫したりするのは、得意だったのですか。
雑賀 生活がかかってるからね。趣味じゃないんです。今日食うものがない時代やから。かといって人の物を盗むわけにいかんし、川のウナギやナマズとかをとっ捕まえて、自分でさばいて食うわけですよ。そこで、とっ捕まえるための仕掛けを作るんです。私の手法は相手の立場になって考えること。自分がウナギだったら、どういう仕掛けを作ったら中に入っていくか。そうやって考え抜いた仕掛けだとよく取れました。
── 石抜き機はコメと石の比重の違いに着目し、底をたたくような上下運動を利用してより分けたりする仕組みだったそうですが、最初は精米機メーカーに依頼しても断られたそうですね。
雑賀 そうそう。メーカーは「そんなもんができるわけない」と。我々はディーラーですから、「お客さんがおコメに入っている石で困っているので、それを取る機械を作ってくれ」と頼むんだけど、メーカーはみんな同じことを言うんです。「雑賀さん、日本人は何百年、何千年も前からずっと石をかんでいるんや、コメに石が入っているのは当たり前や」と。
みんな昔から困ってるんやけど、それが何とかなるんやったら、とっくに何とかなっていた、というわけです。それで私は仕方なく、何とかならんかと思って作ってみたら、できました。でも、我々はその機械を売り出すつもりじゃなかったんです。ディーラーだったから自信がなかったんですが、発表会をすると同業者がぎょうさん来まして、100人ぐらい来たかな。よく売れましたね。
ガムから着想の「無洗米」
この年に東洋精米機製作所(2013年に現社名に変更)を設立し、その後も世界初の全自動精米機(66年)や、全自動計量包装機(68年)、電子色彩選別機(82年)などを続々と製品化。そして、91年に発表したのが、コメを研がずに炊ける「BG無…
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週刊エコノミスト
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