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経済・企業 世界経済総予測2024

生成AIを追い風にしたいGAFAMの足をすくいそうな反トラスト法 岩田太郎

 米巨大IT企業の成長のカギを生成AIブームの行方が握る一方、米国当局による規制強化がリスク要因になっている。

>>特集「政界経済総予測2024」はこちら

 パンデミック後の低迷に苦しむ米テクノロジー業界を救ったのは、2023年に全世界を席巻した生成人工知能(AI)ブームだった。GAFAMは引き続きこの分野への投資を強化しており、24年もAIが米巨大IT企業の業績をけん引しそうだ。一方、AIブームの熱狂が冷める可能性や、当局による規制強化によって現在の業績にブレーキがかかる恐れもあり、各社は正念場を迎える。

先行するマイクロソフト

 GAFAMのうちAI収益化の試みで先頭を走るのは、マイクロソフトだ。同社は、総額130億ドル(約1兆9000億円)を出資した米オープンAIの生成AI「チャットGPT」を応用したAIアシスタント「コパイロット」を業務向け生産性ソフトのマイクロソフト365に組み込み、1ユーザー当たり20ドル(約3000円)で23年11月から提供を開始した。

 さらに、全世界で合わせて14億台以上のシェアを持つオペレーティングシステム(OS)の「ウィンドウズ10」および「11」にもコパイロットを標準搭載し、一般ユーザーにも検索エンジン代わりに、気軽にAIアシスタントを利用してもらえる仕組みを整えた。

 コパイロットは同社クラウド「アジュール」上で回答を生成するため、ユーザーがAIを使用すればするほど、マイクロソフトのクラウド売り上げも必然的に伸びるという算段もある。主にAIの売り上げに対する期待から、同社の時価総額は12月初めに2兆8000億ドル(約420兆円)に達し、3兆ドル超えの可能性が出てきた。

 世界のクラウド市場におけるマイクロソフトのシェアは23年7~9月期に2位の23%で、1位を独走する競合アマゾンの32%を急追している。この差を24年にさらに縮められるか注目だ。

アマゾンとグーグル猛追

 一方、アマゾンも業務用AIアシスタント「アマゾンQ」を発表。機能はマイクロソフトのコパイロットと同等であり、同額の1ユーザー当たり20ドルで24年前半に提供を開始する。すでに米コンサルティング大手のアクセンチュアや欧州自動車大手のBMWグループなどが導入を決めているという。

 加えてアマゾンは、自社開発の機械学習用「トレーニアム2」とサーバー中央演算処理装置の「グラビトン4」を24年に市場に投入し、これらを活用した商用サービスを開始予定だ。AIアシスタント実用化でマイクロソフトに後れを取るアマゾンだが、AI向け半導体では先行しており、両社の競争は熱を帯びる。

 AI分野における先駆者であるグーグルも、強力なAIモデル「ジェミナイ」搭載のアシスタント「バード」を基に開発された、ビジネス向け製品の「デュエットAI」を23年8月にリリース。こちらもマイクロソフトのコパイロットと同等の機能を備え、1ユーザー当たり20ドルで提供されている。

 グーグルは生成AI開発でやや出遅れているものの、AI向け半導体開発の歴史は長く、自社クラウドでの使用に特化したテンサープロセッシングユニット(TPU)のバージョン5の提供開始が近い。同チップは大規模言語モデル(LLM)や生成AIモデルにおいて、1ドル当たりの学習性能が前バージョン比で最大2倍、推論性能が最大2.5倍高速だという。

 市場の認知度や顧客接点の多寡においてはマイクロソフトがややリードする中、アマゾンやグーグルが猛追しており、革新的な技術開発によって順位が入れ替わるのかが、24年の焦点になるだろう。

SNS勢は独自路線

 この他、ソーシャルメディア(SNS)のフェイスブックやインスタグラムを傘下に持つメタ・プラットフォームズも、AIアシスタント「メタAI」を自社SNSや仮想空間メタバースと融合させるなど、独自路線を打ち出した。

 最も開発競争に遅れているアップルも、一般ユーザー向けのAIアシスタントの大幅な改善を24年に提供すると見られている。

 一方、AIブームの失速を懸念する声もある。事実、熱狂に火をつけたマイクロソフトの提携先オープンAIのアシスタント「チャットGPT」の月間ウェブ訪問回数は23年5月に18億回でピークに達した後、8月には14億回まで急減。10月には17億7000万回に回復したが、横ばい状態が続く。

 このままブームが下降線をたどれば、AIに将来を懸けるテック各社および関連企業の時価総額や業績に影響をもたらす可能性がある。

反トラスト法の提訴続出

 24年のGAFAMの業績を占う上で、もう一つの懸念として挙げられるのは、反トラスト法(日本の独占禁止法に相当)による規制強化の流れだ。

 特に米司法省および米連邦取引委員会(FTC)はGAFAM各社が電子商取引、検索、広告、アプリストアなどの分野において独占的地位を乱用し、消費者に不利益をもたらしているとして次々に提訴を行い係争中だ。

 例えば、アマゾンに関しては同社の物流サービスを利用する出品者が翌日配送など条件面で優遇される一方で、利用しない出品者は不利に扱われる。その上、すべての出品者に対し検索結果でより良い位置を得るためにアマゾン・マーケットプレイス上に広告を購入するよう半ば強制されるなど、プラットフォーム運用者としての優越的地位を乱用して「弱い者いじめ」が行われているとFTCは主張する。

 また、グーグルについては、消費者が買いたい商品のサーチをかけた場合、グーグルに広告料をより多く払っている企業の製品やサービスが画面トップのスポンサー広告および検索結果の上位に表示される。下位に落とされた企業がより目立つ「一等地」に表示してもらいたい場合は、より多くの広告料を払うしかない。

 さらにグーグルは、世界で20億台以上が現役であるアップルのデバイスにおいて、毎年数十億ドル(数千億円)をアップルに支払い、既定検索エンジンにしてもらっている。既定であるがゆえに、消費者から検索の選択肢を奪い、技術革新を阻害し、さらにその独占的地位を使って不当に広告料をつり上げているというのが司法省の主張だ。

 これらの訴訟の判決は24年に言い渡されるが、当局が部分的にでも勝訴した場合は、従来の商慣行の変更、既定サービスの取りやめ、さらには特定事業の売却命令などが出される可能性がある。

 24年が、GAFAMの独占打破の元年となるか、注視される。

(岩田太郎〈いわた・たろう〉在米ジャーナリスト)


週刊エコノミスト2023年12月26日・2024年1月2日合併号掲載

2024世界経済総予測 GAFAM 生成AIブームが成長左右 当局の規制強化が波乱含み=岩田太郎

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