週刊エコノミスト Online AIの進化

AIは人類を超えることができるのか 石井泰幸    

年初に米国で開かれたCES(電子機器見本市)では、AIが重要なテーマとなっていた Bloomberg
年初に米国で開かれたCES(電子機器見本市)では、AIが重要なテーマとなっていた Bloomberg

 昨年来、ChatGPTをはじめとする生成AIが大きな注目を浴び、アメリカの未来学者レイ・カーツワイルが提唱した2045年にAIが人間の知能を超えるとされるシンギュラリティ(技術的特異点)の到来がにわかに現実味を帯びてきたというのが一般的な常識となりつつある。そして、シンギュラリティの到来により、今ある多くの仕事がAIに取って代わられたり、最悪の場合には、映画「ターミネーター」や「マトリックス」のように、AIが人類を支配するという未来も考えられるというのである。しかし、果たしてそれは本当であろうか。

 東京大学の高橋宏知教授は、私たちが「知能」と呼ぶものにはAI、すなわち人工知能と私たち人間をはじめとする生物が進化の過程で発達させてきた生命知能の2種類があると述べている。高橋教授によれば、人工知能とはあらかじめ決められたルールや作法に従って作業を自動化する技術であり、生命知能は自分自身でルールを決めて、それに従って物事を進める、もっと言えば自らの考えや行動を「作り出す」という自律化を私たちに可能にする知能である。人工知能と生命知能は決して相互に対立するものではなく、特に私たちの知能は両者の特徴を併せ持つものである。一方で、現在のAIは生命知能的な性質はほとんど持ち合わせていない(高橋宏知『生命知能と人工知能:AI時代の脳の使い方・育て方』講談社、2022年)。

小林秀雄の知見

 すなわち、現在のAIは何かを生み出しているように見えるとしても、結局のところはある特定のアルゴリズムに従って、最も統計的に最適な解を提示しているに過ぎないのである。戦後を代表する文芸批評家である小林秀雄(1902–1983)は早くも1950年代にこの事実を見抜いていた。

 機械は、人間が何億年もかかる計算を一日でやるだろうが、その計算とは反復運動に相違ないから、計算のうちに、ほんの少しでも、あれかこれかを判断し選択しなければならぬ要素が介入して来れば、機械は為すところを知るまい。これは常識である。常識は、計算することと考えることを混同してはいない。将棋は、不完全な機械の姿を決して現してはいない。熟慮断行という全く人間的な活動の純粋な型を現している(小林秀雄『考えるヒント』文藝春秋、2004年版の18頁)。

 近年、藤井聡太8冠の活躍等により、将棋とAIの関係が大きく注目されているが、小林によれば、将棋…

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