週刊エコノミスト Onlineロングインタビュー情熱人

いわきFC10周年が目前――大倉智さん

いわきFCの大倉智社長とマスコットキャラクター「ハ-マー&ドリー」 撮影=武市公孝
いわきFCの大倉智社長とマスコットキャラクター「ハ-マー&ドリー」 撮影=武市公孝

J2・いわきFC社長 大倉智/105

 東日本大震災の被災地をホームタウンに、地域リーグからJ2にまで駆け上がった。地域になくてはならないクラブへ。いわきFCの大倉智社長は「ゼロからの挑戦」を続ける。(聞き手=元川悦子・ライター)

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「フットボールで福島の浜通りを熱狂させる」

── 2月23日にJ2の2024年シーズンが開幕します。福島県浜通り地域のいわき市と双葉郡8町村をホームタウンとするいわきFCにとって、J2での勝負の2年目となりますね。

大倉 今季のスローガンは「UNLEASH(アンリーシュ)─本能を解き放つ」。「個々が持つ感情をさらけだし、フットボールで浜(通り)を熱狂させるという本能的な部分に立ち返り、フットボールが大好きな集団になっていきたい」と、今年1月の新体制発表会の場で700人のサポーターに対して自ら語りかけました。今季は全38試合で勝ち点54〜60、J1昇格プレーオフ圏内の6位以内を目指します。

── J2初参戦となった23年シーズンは、優勝した町田ゼルビアとの10月の対戦で勝利(3対2)するなど健闘しましたが、全22チーム中、勝ち点47の18位でした。

大倉 昨季から選手の半分が入れ替わり、新たに15人が加わったチームだけにチーム内の関係性づくりがポイントになると思いますが、僕のモットーである「前へ前へ突き進む」気持ちで取り組んでいくつもりです。また、25年にはクラブ創立10周年を迎えますが、現在の本拠地「ハワイアンズスタジアムいわき」(いわき市)は収容人員が5048人で、さらなる集客増を図るにはスタジアムの課題はどうしても浮かび上がります。

── 昨年4月にはいわきFCがスポーツ庁の「スポーツ産業の成長促進事業『スタジアム・アリーナ改革推進事業』」の公募事業者に選ばれ、先進モデルとなるスタジアム計画を取りまとめることになりましたね。

大倉 スポーツ庁の事業では、今年3月までに新スタジアムの基本計画(コンセプト)を国に提出する予定です。また、いわきFCは22年10月、新スタジアムの整備などを前提に(J2参戦資格の)「J2クラブライセンス」、昨年9月には「J1クラブライセンス」の交付をJリーグから受けましたが、25年6月には具体的なスタジアム整備計画をJリーグに示さなければなりません。

── 描いているスタジアム像は?

大倉 まず、主語は地域であって、いわきFCであってはいけない。スタジアムがいわき市、双葉郡にとって、地域になくてはならない存在であるべきだと思っています。試合が行われるのは1カ月に2回程度。それ以外の時間を地域の皆さんが共有できる場でなくてはいけません。例えば、シンガポールのタンピネス・スタジアムはスタジアム、プール、アリーナなどのスポーツ施設のほか、図書館や行政施設、医療機関、さらに映画館やショッピングモールなどの商業施設の機能も備えていて、日常的に人々でにぎわう拠点になっています。

 スタジアムがあることで、さまざまな地域課題を解決する一助になりたいですし、そのためにJリーグが地域にある意味をしっかりと伝えていきたいと思います。

心が動いた「復興に貢献」

 人口32万人と福島県内有数の規模を誇る太平洋岸のいわき市。ここで15年12月、当時福島県3部リーグだったいわきFCの運営権を譲り受ける形で「いわきスポーツクラブ」が設立された。11年3月の東日本大震災と原発事故後の復興が緒に就いたばかりの時期。大倉さんは設立当初から社長を務め、いわきFCを地域リーグから21年シーズンには日本フットボールリーグ(JFL)優勝、22年シーズンにはJ3優勝へと導いてきた。

 そんな大倉さんは、かつて柏レイソル(現J1)などで活躍した大型FW。柏がJリーグに昇格した1995年の清水エスパルスとの開幕戦では、柏の記念すべきJ初ゴールも挙げた。98年に引退後はスペインでスポーツマーケティングを学び、01年にはセレッソ大阪、05年には湘南ベルマーレにスタッフとして入る。14〜15年は湘南の社長も務めたが、地縁もないいわきへと突然転身し、多くの関係者を驚かせた。

「湘南の社長退任は驚かれたが、僕はどこまで行ってもチャレンジャーでいたい」

── 15年シーズンをJ1で戦った湘南の社長を辞め、県リーグのクラブを立ち上げ、ゼロからスタートしたのはびっくりしました。

大倉 よくいわれます(笑)。僕はどこまで行ってもチャレンジャーでいたいんですよね。01年からセレッソと湘南で長く働きましたが、実をいうと、勝った負けたを毎年、繰り返す中で「本当にこのままでいいのか」とモヤモヤ感を覚えるようになったんです。そうした中で13年、大学時代に知り合った同学年の安田秀一(現いわきFCオーナー)と二十数年ぶりに再会したのが転機になりました。

 安田オーナーは「ドーム」という(スポーツ用品ブランドの)米アンダーアーマーの日本総代理店創業者で、当時は社長を務めていました。ドームがいわき市に巨大な物流倉庫(ドームいわきベース)を作り、東日本大震災の復興に貢献するという話を彼から聞き、すごく興味が湧いたんです。そこで彼が「ここで一緒にサッカーチームを作らないか」と声を掛けてくれました。

── そこからの大倉さんは?

大倉 休みのたびに一…

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