経済・企業 FOCUS
1~3月期もGDPマイナスの恐れ 積極さに欠ける企業と家計 藻谷俊介
株価が続伸する横で、日本のGDP(国内総生産)が2023年10~12月期まで2四半期連続で縮小したことは、想定外だったようにいわれるが、そんなことはない。そもそもGDPの中核をなす民間消費支出と企業設備投資は、既にどちらも3四半期連続で結構なマイナスで、悪化は今に始まった話ではない。輸出にカウントされるインバウンド(訪日客)需要が伸びたり、たまたま輸入が一時的に減少したりしたために、そうした内側からの悪化が糊塗(こと)されていただけだ。
困ったことに、好調だったインバウンド需要もここに来て収縮を始めている。日本政府観光局の訪日外客数や、観光庁の外国人旅行総取扱額は、季節調整をかけて年末の季節的な上乗せを取り除くと、昨年末にかけて既にマイナスに転じている。1月の東京都区部の消費者物価指数は宿泊費、外食などを中心に大きく減速したが、インバウンド客の更なる減少に加えて、地震による活動の落ち込みもあったことだろう。日本人による消費や投資が弱いところへ、頼みの外国人も減ってきたとなると、1〜3月期も若干のマイナス成長になる可能性すらある。
日本経済の数十年ぶりの復活が叫ばれる中、こうした体たらくになるのはなぜか。通り一遍なイメージ論では、インフレによる消費冷え込みと解釈されやすいが、時系列的には説明がつかない。
最も急峻(きゅうしゅん)に物価が上昇した22年から23年の頭にかけては消費、そしてGDPは最も勢いよく伸びており、逆に企業が賃金の支払いを若干とはいえ増やし始め、エネルギー補助金も出て、インフレ率も低下してきた23年の夏場以降にむしろ消費が失速したのだ。
コロナ明け特需一巡
このリズムに説明が付くとすれば、22年の後半からなし崩し的に始まったコロナ明け特需の一巡だ。「引きこもり」から抜け出した日本人が、外出して消費し、旅行に出かけたものの、程なく当面の欲求は満たされたのだろう。これは、海外経済なかんずくアジア経済にも見られる波動で、前述のインバウンドのピークアウトも同根と思われる。
設備投資については、この機に企業が攻めに転じておらず動きが鈍い。言い方は悪いが、頑張って生産を増やさずとも、値上げと円安で法人企業統計が示す売り上げは増え、経常利益は過去最高だ。賃金や設備投資よりも配当を増やせば即座に株価は上がる。力を合わせた自律的な国内経済の循環作りより、個々の利益が優先されている。
海外経済は総じて回復が続く。国内においても、兆しが全くないわけではない。中小企業まで合算した法人企業統計の人件費総額は、実質でもプラスになった。1人当たり実質給与はマイナスだが、それは昭和の「オトーサン中心家計モデル」の発想で、共働きが増えた今では違った見方もできる。家計セクター全体への支払いは、インフレに負けていないのだ。その意味では日本経済だけがこのまま不況に陥るとは思わない。だが、企業も家計ももう少し積極的にならないと、株価に見合う日本経済にはなれないのではないだろうか。
(藻谷俊介・スフィンクス・インベストメント・リサーチ代表取締役)
週刊エコノミスト2024年3月5日号掲載
FOCUS GDP2四半期連続縮小 1~3月期もマイナス成長か 積極性に欠ける企業と家計=藻谷俊介