週刊エコノミスト Online 経済学
歴史的株高をどのように考えるか 石井泰幸
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2月22日に日経平均株価は、バブル経済期の1989年12月29日の終値を上回る史上最高値を更新し、3月2日には4万円台に到達した。このように、株式市場は現在、大変な活況を呈しているが、これに対しては、多くの喜びや期待の声が寄せられる一方で、バブルではないかという懸念もささやかれている。2月26日に、日本取引所グループの山道裕己CEOは「企業の稼ぐ力は確実に高まってきている。実態とかけ離れた株価が形成されている状況とは思わない」と定例の記者会見で述べ、現状がバブル経済であるという見方を否定したが、現在の世界情勢が依然として不透明であることも踏まえれば、楽観視することもできないように思われる。
このように、現在の株高については、様々な見解が示されているが、一つ確実に言えることは、この株高がバブル経済なのか、それとも実体経済に即した健全な好景気を示すものなのかは、結局のところ、ふたを開けてみなければ分からないということである。実際、私たちは経済学的知見に依拠してこの現象に取り組むことになるであろうが、残念ながらオーストリア出身のノーベル経済学賞を受賞した経済学者であるF・A・ハイエク(1899–1992)が指摘しているように、経済学が将来の具体的な事象に関して、特にバブル経済の判断とそれがいつ弾けるかについて予測を行うことは極めて困難である。例えば、経済学は歴史的な大不況である1929年の世界恐慌も2008年のリーマンショックもその発生を全く予測することができなかった。
しかし、誤解してはならないことは、だからといって経済学が何の役にも立たない机上の空論ではないということである。経済学の目的はどの銘柄の株式を購入すれば儲かるのか、あるいは現在の好景気はいつ終わるのかといった具体的な社会的事象を予測するということではない。そうではなく、人々の日々の行為がいかにして経済社会を作り上げるのかについての一般的・普遍的原理を明らかにする学問が経済学なのである。例えば、私たちはレストランで食事をすれば必ず代金を支払う。また、私たちは物を買うとき、その商品をできるだけ安く購入しようと思うし、自分が作った商品を売るとき、それをできるだけ高く販売しようと思う。そして、買い手と売り手との間で価格が合意されれば取引が成立する。私たちは同じ人間として他の人の経済行動を当たり前に理解することがで…
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