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教養・歴史 書評

現地で“会う・見る・読む” 半世紀以上にわたる台湾政治研究を集約 評者・近藤伸二

『台湾の半世紀 民主化と台湾化の現場』

著者 若林正丈(早稲田大学名誉教授)

筑摩選書 2090円

 1月13日に行われた台湾総統選で、与党・民進党の頼清徳副総統が野党の2候補を破り、政権の継続を決めた。評者も現地で取材したが、総統選は台湾の民主化を象徴するイベントとして、世界の注目を集めている。だが、ここに至るまでには、長い道のりがあった。

 日本が台湾に無関心だった時代から観察してきた著者が、そんな歴史を振り返り、分析したのが本書である。ネットメディアに連載した「私の台湾研究人生」が基になっているだけに、自身と台湾の関わりを余すところなく披露している。

 1972年に大学院に進み、本格的に台湾研究に取り組んだ著者のテーマは、日本統治期の台湾の政治運動だった。だが、現地調査を繰り返す中で民主化の胎動に触れ、現代政治の分野に軸足を移す。

 手法は「①『人に会う』、②『選挙を見に行く』、③台湾政治の『ニュースを読む』、この三点セット」だ。国民党一党独裁の下、「党外」と呼ばれた反体制派とも交流した。党外は86年、当時は非合法だった民進党を結成する。著者はその分、当局の警戒リストに載る代償も支払った。

「共産中国」に対抗する「自由中国」を標榜(ひょうぼう)していた国民党政権は、強権体制を敷きながらも、地方選挙や中央の増員選挙を実施した。視察を重ねてきた著者は、「国民党政権がある意味でやむなく挙行し続けた選挙こそ貴重な『自由の隙間(すきま)』であった」と意義付ける。

 その総仕上げが、96年の初の総統直接選挙である。中国がミサイル演習で威嚇する中、国民党現職の李登輝氏が大勝した。結末を見届けた著者は「複雑な台湾の近現代史が残した夢とさまざまの因縁とに、民主選挙によって、この日まさにひとつの決着を平和的につけることができた」との感慨を抱く。

 この頃から、日本で台湾研究が熱を帯び出し、従来のような「中国研究の一領域」には収まり切れなくなった。そこで、著者は98年、仲間と日本台湾学会を設立し、理事長に就任する。現在につながる台湾研究のプラットフォームを築いたのだ。

 半世紀以上台湾の政治を見つめてきた著者は、未解決の問題として「憲法の法理において中国大陸を含む国家ではないことを宣明する」ことを挙げる。それを「中華民国台湾化の完了」と名付けているが、いつ達成できるかは見通せない。

 だからこそ、長年にわたって台湾政治研究のトップランナーとして走り続けながら、著者にはまだゴールは見えていないのだろう。

(近藤伸二・ジャーナリスト)


 わかばやし・まさひろ 1949年生まれ。東京大学大学院社会学研究科国際関係論修士課程修了。同博士課程退学。社会学博士。早稲田大学政治経済学術院教授、同大学台湾研究所所長などを歴任。著書に『蔣経国と李登輝』(サントリー学芸賞)など。


週刊エコノミスト2024年3月12日号掲載

『台湾の半世紀 民主化と台湾化の現場』 評者・近藤伸二

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