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日銀の利上げから考える「日本経済活性化法」 石井泰幸
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日本銀行は3月19日にマイナス金利政策を解除し、約17年ぶりとなる利上げへと舵を切った。さらに、4月5日付の朝日新聞朝刊によれば、植田和男日銀総裁は、物価上昇率2%目標達成の確実性がさらに高まれば、夏から秋にかけて、さらなる利上げを検討するとの考えを示した。
しかし、金利とは、いわばお金の借りやすさでもあるので、金利が上がれば、経営者たちは借金をしてまで資本や設備等に対する投資を行う動機を失ってしまう。主に民間の投資の不足によって、我が国はバブル崩壊後の失われた30年を経験することになったことを踏まえれば、物価と賃金が安定的な上昇傾向を見せるようになったからといって直ちに政策を転換することはあまり賢明とは言えない。
というのは、企業の経営者を含む普通の人々は、経済学が想定するほど合理的には行動しないからである。
一般的に経済学では、合理的経済人という人間像が前提とされており、個人や経営者は常に利益を最大化するために合理的な行動をとると仮定されている。米国の経済学者ロバート・ルーカスは、1995年に合理的期待形成仮説によってノーベル経済学賞を受賞したが、この学説に依拠すれば、人々は将来を予測する際、政府の政策に関する情報を含めたあらゆる情報を効率的に利用することができるとされる。
このような人々は、経済学的知見を駆使することによって、政府の政策が経済にどのような効果をもたらすかを予見することができる。こうして人々は自身の経済行動を変化させてしまうため、結果として政策の効果が打ち消されてしまう。ルーカスはこれによって、金融政策と財政政策が無効であると主張したが、このように人間の合理性を想定する議論は、マクロ経済学の創始者であるジョン・M・ケインズ(1883–1946)による重要な示唆を無視するものである。
ケインズが主張したアニマル・スピリット
ケインズは、人間の活動が数学的な期待値というよりも「アニマル・スピリット(血気)」に依存すると主張した。「アニマル・スピリット」とは、人間の本性に内在する不活動よりも活動を欲する自生的な衝動であり、合理的な計算とは対立するものである。実際、企業家による投資行動は多くの場合、野心や冒険心といった非合理的な精神、すなわち「アニマル・スピリット」に基づいている。現実問題として、事業に成功するかどうかは、宝くじのように不確実なものであり…
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