週刊エコノミスト Online 経営論
なぜ、今ドラッカーなのか「組織における自由の哲学とは」 石井泰幸
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5月16日に内閣府は2024年 1~3月期の実質GDP(国内総生産)の成長率が対前期比0.5%(年率2%)のマイナスとなっていると発表した。円安や物価上昇が続き、消費が振るわない現状に鑑みると、歴史的な株高が続いているとはいえ、日本経済の先行きは決して予断を許さない状況にある。
しかし、ここで重要なことは景気の状況がどうあれ、私たちは経済的に自分の足で立ち続けなければならないということである。企業もまた同様であり、どんなに不況に直面したとしても、それを乗り越えていかなければならない。では、それはいかにして可能であるのか。ここに絶対的な正解は存在しないが、それを可能にする一般原理は存在している。この原理を明らかにした人物こそがピーター・F・ドラッカー(1909–2005年)である。
ドラッカーの名を耳にしたことがないという人はおそらくあまりいないであろう。現代の企業経営において欠かすことができない「マネジメント」という概念を生み出した経営学者である。我が国では、かねてより多くの経営者がドラッカーからの強い影響を受けていたが、2009年に岩崎夏海著『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』(ダイヤモンド社、通称「もしドラ」)がベストセラーとなったのを機に一般にも広くその名が知られるようになった。
実際、ドラッカーの人間の「真摯さ」を根底に置くマネジメント理論は普遍性を持つものであり、企業に限らず、学校におけるクラス運営や部活動、大学のサークルなど、組織であればどこでも有用性を発揮する。
しかし、ドラッカーのマネジメント理論は決して組織運営のハウツーを伝授するといったテクニカルなものにとどまらない。そのドラッカーの考え方の基本は、19世紀の革命と20世紀の2度の世界大戦への深い考察から導き出されたものであり、当時の商業社会の主役であった「経済人」が「産業人」に代わって興隆した産業社会を支えるといった新たな現実を説明するものである。これは、ドラッカーが構想した彼一流の社会哲学から導かれた一つの結論でもあるのだ。
このドラッカーの社会哲学は、彼の初期の著作である『「経済人」の終わり』(1939年)と『産業人の未来』(1942年)において見ることができる。この二つの著作は、フリードリヒ・A・ハイエク著『隷属への道』(1944年)に並ぶ書であり、…
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