「路上で寝る権利」の是非は? 注目集まる最高裁判決の行方 井上祐介
米国経済は新型コロナウイルス禍からの回復を続けている。実質GDP(国内総生産)成長率は2024年1~3月期まで8四半期連続のプラスとなった。失業率が4%を下回り、株式市場に代表される資産価格が上昇した結果、特に個人消費が好調である。海外からの投資も米国に集まり、相対的に見ても世界の中で独り勝ちの様相である。
しかし、景気拡大の恩恵が必ずしも平等に行き渡っているわけではない。低所得者ほどインフレの高止まりによる購買力の低下に苦しんでいる。若年層は住宅価格やローン金利の上昇によりマイホームに手が届きにくくなっている。
そして、ホームレス人口も16年以降、一貫して増え続けているのが実情だ。住宅都市開発省の調査によると、23年の全米の路上生活者は前年比12%増の65万人となった。子どもを含むホームレス世帯の増加も最近の特徴である。
高額罰金の自治体も
こうした中、路上で寝る権利の是非が最高裁で審理されている。その渦中にあるのがオレゴン州南西部のグランツパス市だ。かつては林業で発展した同市には、人口約4万人に対し、約600人のホームレスがいるとされる。同市は対応に苦慮した結果、13年に路上で毛布を用いて寝ることを禁止する条例を導入し、違反者には初犯で295ドルという高額の罰金が科されることになった。市内には公共のホームレスシェルターはなく、生活困窮者の追い出しを意図した施策だと考えられている。
行き場を失った路上生活者は18年にグランツパス市を相手に裁判を起こし、控訴審までは主張が認められてきた。それでも、治安や衛生上の問題から全米各地で同様の条例が制定されている。
今回焦点となっている…
残り695文字(全文1395文字)
週刊エコノミスト
週刊エコノミストオンラインは、月額制の有料会員向けサービスです。
有料会員になると、続きをお読みいただけます。
・1989年からの誌面掲載記事検索
・デジタル紙面で直近2カ月分のバックナンバーが読める