教養・歴史 書評

日露英中の史料を駆使した高度な実証作業で日ソ戦の全体像を描く試み 井上寿一

 2022年に始まったウクライナ戦争は今も続いている。日本はこの戦争の直接の当事国ではない。しかしロシアあるいはソ連と戦争をしたことがある。とりわけ日ソ戦争はウクライナ戦争と重なる部分がある。ウクライナも当時の日本もロシアあるいはソ連と戦争をする意思はなかった。どちらもロシアあるいはソ連から仕かけられた戦争だった。

 もとより日本がポツダム宣言を即時受諾していれば、日ソ戦争は起きようもなかったから、ウクライナ戦争と同列に扱うことはできない。それでも当事国意識を持ちながら、ウクライナ戦争を考えることに役立つかもしれない。

 ソ連が第二次世界大戦の帰趨(きすう)を決定づけたことはよく知られている。ベストセラーになった大木毅『独ソ戦』(岩波新書、946円)は、この戦争の凄惨(せいさん)さを描くだけでなく、欧州戦線におけるソ連の歴史的な役割を考えさせる。

 同書と比肩するのが麻田雅文『日ソ戦争』(中公新書、1078円)である。本書はアジア太平洋戦線におけるソ連の歴史的な役割を描く。ここでは両国の1次史料はもとより、英語や中国語の史料・文献の調査に基づくきわめて高度な史料実証作業をとおして、日ソ戦争の全体像が描き出されている。

 類書が示す通説とは異なって、目を引くのは、「関東軍は善戦した」との解釈である。関東軍直轄の第四軍は、侵攻を数日後と予想した司令官の下、停戦命令まで陣地を死守した。

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週刊エコノミスト

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