経済・企業 株主代表訴訟

オリンパス深圳工場贈賄疑惑①7月10日に当時の会長・社長ら尋問――関与の現地コンサル、共産党地元幹部との癒着で有罪が判明

贈賄疑惑の舞台となったオリンパスの深圳工場
贈賄疑惑の舞台となったオリンパスの深圳工場

 2011年に巨額粉飾決算が発覚した大手精密機器メーカー、オリンパスで、再建のために主取引銀行などから送り込まれた経営陣が、中国法人の贈賄疑惑で株主から責任を問われている株主代表訴訟が大詰めを迎えている。映像機器を製造していた深圳工場が現地税関当局とのトラブルを解決するために、すでに贈賄疑惑が報じられていた地元の業者に4億円強の報酬を支払ったのは、善管注意義務違反に当たるなどとして、個人株主が2020年、当時の取締役と監査役の計11人を相手取って、計16億円をオリンパスに支払うように求めて東京地裁に起こしたものだ。

木本元会長、笹元社長ら4人出廷

 7月10日には、当時の会長、社長を務めていた木本泰行氏、笹宏行氏を含む4人の尋問が予定されている。経済のグローバル化が進展する中、世界的に不正競争防止の観点から、外国公務員に対する贈賄を厳しく問う事例が増えてきている。オリンパスも、米国や中南米における医療関係者への利益供与で、米州法人が米司法当局に罪を問われ、16年、罰金など740億円を払わされたばかり。今回の訴訟は、日本企業のガバナンスや内部統制のあり方について、改めて経営者に警鐘を鳴らしている。

 この中国法人の贈賄疑惑でオリンパスは内部通報を受け、同社の常勤監査役が15年2月に、シャーマンアンドスターリング外国法事務弁護士事務所と西村あさひ法律事務所に調査を依頼した。10月に受領したその調査報告書などによると、事件の概要は以下の通りだ。

 発端は、06年5月、オリンパスの深圳工場であるOSZ(Olympus Shenzhen Industrial Ltd.)が中国税関総署の税務監査を受けたことに遡る。帳簿上の在庫と実際の在庫で数字が一致しないことが判明し、その乖離は最終的に6.94億ドルにのぼると算定された。この案件を中国税関総署から引き継いだ深圳税関は、OSZに14年9月までに不備を解消するように求めた。

深圳税関と太いパイプの地元コンサル「安遠」

 OSZは、深圳税関と太いパイプがあると思われる「安遠控股集団公司(安遠)」に相談を持ち掛けた。

 OSZは11年、地元消防局から指摘された施設不備などの問題を、地元公安当局から紹介された安遠を使って処理した過去があり、膠着状態にあった税関当局との交渉を進めるため、再び安遠を頼った形だ。その結果、安遠の関連会社「安平泰投資発展有限公司(安平泰)」とコンサルタント契約を結ぶことになった。

 このコンサル契約は13年、当時のオリンパス本体の木本泰行会長、笹宏行社長、藤塚英明専務、竹内康雄専務らに説明された。その際、その一人は現金での支払いを現地の決裁権限上限内に抑え、オリンパス本社の決裁を不要とするようにと示唆した。

米腐敗防止法抵触へ懸念の声も、4.6億円を支払い

 14年4月にOSZは、安平泰と正式に契約を結んだ。締結に際して、OSZの上部組織であるオリンパスのアジア統括法人OCAP(Olympus Corporation of Asia Pacific)で財務決裁を審議する立場にあった幹部らから、米国のFCPA(海外腐敗行為防止法)や贈賄などの法令に抵触する危険性を指摘する声が上がった。しかし、同年12月18日、オリンパス中国法人は安平泰に対し、2400万人民元(日本円で4億6千万円)を支払った。

過去に何度も贈賄疑惑が報じられた安遠総裁の陳族遠氏

 アジア統括法人内部で問題となったのは、安遠グループの総裁である陳族遠氏が、中国内で贈賄疑惑が何度も報じられていた曰くつきの人物だったからだ。

 中国国内の報道によれば、陳氏は過去、雲南省交通部副部長だった胡星氏に賄賂を贈ったことがあり、2008年には、複数の中国メディアがその贈賄疑惑について報じていた。オリンパスの調査報告書によれば、オリンパスやOCAP社内で2014年1月に安遠の贈賄疑惑に関する報道記事が共有され、「安遠グループが反社チェック疑惑にひっかかった」というメールのやりとりがなされていた。

陳族遠氏、党幹部への贈賄で懲役4年の実刑判決

 それだけではなかった。

 広州の地元メディア『南方都市報』の18年6月29日の報道などによると、陳氏は2014年までの10年間にわたって、広東省常務委員など中国共産党の要職を歴任した万慶良氏から便宜供与を受け、その同意のもと関係者に贈賄したとして、14年6月に広州検察院で罪を認め、その後、時期は定かではないものの懲役4年の有罪判決を受けたという。

賄賂の額は5000万人民元

 現地メディアの報道によれば、陳氏に対して企業贈賄罪の有罪判決が下された第一審では、以下の事実が認定されたという。ひとつは、万氏のために、13年11月から14年5月にかけて約5000万人民元の賄賂を関係者に贈ったこと。そしてもうひとつは、04年から14年までの約10年間、会社の不正な利益を追求するために、万氏から職務上の便宜を受け、旧市街改造プロジェクトなどに参加させてもらったことだ 。

 中国の政府系メディア人民網は、2014年7月の時点で万氏の拘束(逮捕)を報じており、同記事は、万氏が掲陽市の幹部だったときのプロジェクト「30億工程」に、陳氏が多額の金銭援助をしていたことにも言及している。

 2014年6月に検察の捜査が進み、報道もあったとみられることから、これはつまり、オリンパス側が同年12月に安平泰に5億円弱の報酬を支払うより前に、陳氏に新たな贈賄の疑惑が持ち上がっていることを知る余地があったということができる。

2020年に個人株主からオリンパスの現旧取締役らに株主代表訴訟

 安平泰(安遠)との不明朗な取引をめぐって、オリンパス本社の現旧取締役・監査役らは、2020年2月に個人株主から株主代表訴訟を起こされている。

 原告側は法廷で、被告の現旧取締役や関係役員らについて、安遠側との契約締結を承認ないし黙認したり、契約解消を働きかけなかったりしたことは、FCPA違反に当たる行為を助長し、それに加担する行為だったと主張。また、被告の中に安遠をコンサルとして起用することによる贈賄リスクについて検討するよう指示していた人物や、契約の決裁を子会社内で完結させられないかと示唆していた人物、そして陳氏の贈賄疑惑などについて報告を受けていた人物がいたことからも、贈賄リスクを認識した上で契約を承認ないし黙認し、その後も放置したと言えるため、注意義務に違反すると訴えている。

被告ら、「オリンパス中国法人内での決裁完了の指示」を否定

 これに対して被告側は、安平泰が税関当局に贈賄を行ったという行為が特定されておらず、被告らが贈賄の実行行為者と意思連絡を行った事実もないことから、原告の訴えは失当であると反論している。また、「契約を締結するにあたり取引先として問題がないのかどうか確認するようにという一般的なリスク検討を求めた」だけであり、贈賄疑惑に関する報告を受けた被告についても、「何らかの不正行為を報道がされたことがあるという程度の話を聞いた」だけで、その後「問題はなかった」と聞いた、などと反論した。「OCAP内の決裁で完了するような指示をした事実はない」とも主張している。

原告側弁護士「現地の報道で、被告らは贈賄リスクを認識できた」

 取材に応じた原告株主代理人の白井啓太郎弁護士によると、08年に報じられた雲南省交通部の胡星氏に対する贈賄の件を「コンサル契約前に、贈賄リスクを認識できた根拠である」と重要視しているという。14年4月の安平泰とのコンサル契約締結から14年12月の成功報酬支払いまでの間に、オリンパス本社役員が、安平泰による贈賄リスクや「反社会的勢力」と評価される可能性が高いことを認識すべきだったか否かも重要な争点のひとつだという。白井弁護士は、2014年7月に出された人民網の(万氏拘束に関する)記事について、「2400万人民元の支払い前に、さらに陳族遠に関して新たな贈賄疑惑が持ち上がっていたことになる」と指摘している。

 オリンパス本社に、これらの事実関係を含めた調査結果を送り、コメントを求めたところ、「係争中のためコメントは控える」「これまでも開示すべき内容については適時開示にて開示している。また今後開示する内容が新たに発生したら適時開示にて皆様へお伝えしていく」という回答はあったものの、それ以上に詳しい説明はなかった。

 次回は、東京地裁の中目黒ビジネスコートで行われているこの株主代表訴訟の尋問の様子を紹介していく。(木下晴/奥山俊宏・ジャーナリスト)

インタビュー

週刊エコノミスト最新号のご案内

週刊エコノミスト最新号

10月15日・22日合併号

歴史に学ぶ世界経済第1部 マクロ、国際社会編18 世界を待ち受ける「低成長」 公的債務の増大が下押し■安藤大介21 中央銀行 “ポスト非伝統的金融政策”へ移行 低インフレ下の物価安定に苦慮■田中隆之24 インフレ 国民の不満招く「コスト上昇型」 デフレ転換も好循環遠い日本■井堀利宏26 通商秩序 「 [目次を見る]

デジタル紙面ビューアーで読む

おすすめ情報

編集部からのおすすめ

最新の注目記事