経済・企業 株主代表訴訟

オリンパス深圳工場贈賄疑惑③主取引銀行出身の木本元会長らが法廷で証言――「潔癖すぎるくらいの倫理観」はいずこへ?

オリンパスの2012年のCSR報告書で笹元社長(左)と木本元会長は信頼回復を誓っていた
オリンパスの2012年のCSR報告書で笹元社長(左)と木本元会長は信頼回復を誓っていた

 日本の精密機器メーカー、オリンパスは2014年、中国共産党幹部との長年の癒着を同年6月に摘発された中国・深圳の業者に、中国税関当局との折衝を依頼し、同年12月に現地法人から5億円弱の成功報酬を支払った。この支払は実質、贈賄への加担ではないのか。そんな疑問から奈良県のオリンパス株主が当時のオリンパス役員を相手取って東京地裁に株主代表訴訟を起こして4年半近く。2024年7月10日午後、歴代オリンパス会長の尋問がその法廷でおこなわれた。午前の法廷の様子を紹介した前回記事に続けて、今回は午後の法廷の様子を紹介する。

 午後1時8分、笹本裁判長ら3人の裁判官が法廷に戻ってくる。裁判長が一礼するのに続いて、起立した全員が一礼する。

木本元会長、「綾鷹」のペットボトルを手に証言台に

 紺色スーツ姿、ノーネクタイの木本泰行・元オリンパス会長が「綾鷹」のペットボトルを手に証言台の前に歩いてくる。

 木本氏は、オリンパスの主取引銀行だった三井住友銀行で専務を務め、2012年4月、経営危機にあったオリンパスに送り込まれた。「グローバルな視点も含めた広い視野」からオリンパスの経営を見るとともに、取締役会議長の役割を与えられた。2015年6月まで3年あまり、取締役会長を務めた。

 自身の訴訟代理人弁護士との問答によれば、木本元会長が、マイナス理論在庫問題の解決のために「安遠」という会社をコンサルタントとして起用しようと考えているとの報告を阿部総務部長から聞いたのは、2013年夏から秋にかけてのころのことだったという。

 その際、阿部総務部長からは「安遠はOSZ(Olympus Shenzhen Industrial Ltd.)所有の寮2棟の購入も希望しているので、安遠とのコンサルタント契約に対する報酬支払いの方法として、OSZ所有の寮2棟の譲渡対価を充てることも考えられる」という趣旨の話があった。会長だった木本氏は「コンサルタント契約と寮の売却は別物である以上、そうした報酬支払いは会計上適切ではない」と思い、「切り離して別々の取引としておこなうように」と言ったという。

 午後1時24分、原告株主の訴訟代理人、富田智和弁護士がまず、三井住友銀行時代の木本氏の海外業務経験から質問を始め、海外で贈収賄事件に巻き込まれる危険性に関する認識に話を進める。

木本元会長「贈賄リスクは、一般的な要注意事項の一つ」

 木本元会長は次のように答える。

「贈賄リスクについては中国に限らず、けっこういろんな国であることですから、一般的な要注意事項の一つだろうと思います」

 安遠をコンサルタントとして起用する案を2013年に聞いた際の話へと、富田弁護士の質問は入っていく。

富田弁護士「安遠がどういう企業なのかについて報告を受けたことはありますか」

木本元会長「細かいことまでは聞いてないと思います」

富田弁護士「たとえば、公安から紹介されたとか、そのあたりはいかがですか」

木本元会長「公安から紹介されたというのは聞いた記憶はありません」

富田弁護士「たとえば、公安出身者がやってる会社だとかそういうようなことは?」

木本元会長「それは聞いたかもしれません」

富田弁護士「安遠を用いる理由についてどういうような話をしていたんですかね?」

木本元会長「以前にあった消防法違反か何かの問題でそれの解決を手伝ってもらった先で、そのあと食堂の運営なんかも委託していますという報告を聞きました」

木本元会長、罰金額と連動する報酬契約に「そういうもんかな」

なぜ、贈賄疑惑が報じられていた地元企業「安遠」とのコンサル契約を認めたのか(中国深圳市にある安遠本社)
なぜ、贈賄疑惑が報じられていた地元企業「安遠」とのコンサル契約を認めたのか(中国深圳市にある安遠本社)

 安遠の側との契約は、OSZに科される罰金の多寡によって、ある基準額より抑えられた額の8割をコンサル報酬として安遠側に支払う一方、もし仮に罰金が基準額を超えたときには逆に安遠が罰金の一部を負担する、という「極端な成功報酬制」とする方針となっていた。

 富田弁護士が「そういう報酬体系を聞いたときにどう思いましたか?」と尋ねる。

 木本元会長は「まぁ、そういうもんかなというような考え方をしました」と苦笑気味に答える。

 富田弁護士は重ねて「実際いままでこういう報酬体系の契約書を見た記憶はありますか?」と尋ねる。

 木本元会長は「罰金とダイレクトに連動するのは正直見たことないですね、はい」と答える。

 安遠が贈賄に関わったとの報道については「聞いたことないですね」と答える。

 午後2時4分、木本元会長に対する尋問が終了し、休廷となる。

竹内現会長「汚職リスクはないのか検討を指示」

 4人のなかで唯一、現職のオリンパス取締役である竹内康雄氏は午後3時、白いカッターシャツに青いネクタイを締め、ネイビーのスーツを身にまとい、最後に証言台に前に立つ。

 2012年にオリンパスの専務となり、2019年から2023年まで社長を務めた。いまは代表執行役会長の座にある。

 専務だった2013年11月ごろ、阿部総務部長から、問題を解決するため安遠をコンサルに起用する予定について説明を受けた。竹内氏はその際、「安遠という会社がどういった企業なのか、安遠を起用する場合にリスクはないのか」と考え、その点を確認するよう指示した、という。

 被告代理人弁護士が主尋問で、どのようなリスクを想定していたかと問われると、竹内氏は、「直感では汚職のリスク」と答えた。「一般的に外部を雇うときに行うリスクの確認」という意味合いだったとも説明した。2014年9月に罰金がゼロになったと聞いた時には「驚いた」が、マイナス理論在庫は「もともと単純ミスに起因」するもので「それが当局に理解されたんだろう」と考えたという。

 原告代理人弁護士は、竹内氏が2012年からOSZの上位組織であるOCAP(Olympus Corporation of Asia Pacific)の董事を務めていたことにも触れて、阿部総務部長から税関問題やコンサル起用について説明を受けたときに「OCAPでもチェックすべきとは思わなかったのか」と尋ねた。これに対して竹内氏は、「強くは思わなかった」と答えた。

 「自分からOCAP内で情報収集をしようとしなかったのか」という問いに対して、竹内氏は「問題なく進んでいると思った」から、特に状況を把握しようとすることは「なかった」と答えた。

再建で送り込まれた経営陣、なぜ、いびつな報酬体系を追及せず?

 尋問を受けた被告は4人とも、11年の損失隠し問題を受け、経営陣が再編成された12年4月にオリンパスの取締役のポストに就いている。笹氏の過去のインタビューでの言葉を借りるならば、まさに「潔癖すぎるくらいの倫理観」が求められた経営陣といえる。被告の中には、銀行勤めや海外での経験を買われて外部から招致される形で就任した人物もいたが、OSZと安平泰との間で交渉された歪な報酬体系について全員が「変わった報酬体系」と思いつつも、誰も深く追及することはなかった。OSZと安平泰が契約を交わした当時会長だった木本氏は、OSZの製造管理本部長だった人物からこの報酬体系について説明を受けた際「そういうもんかな」と納得するだけで、安遠として(罰金額をゼロあるいは少額に抑える)自信があるという認識は「しなかった」と話した。

「覚えていない」「自分が指示・決裁する立場にない」繰り返す

 4人の尋問を通して何度も聞かれたのは、「覚えていない」「自分が指示・決裁する立場にない」といった言葉だった。竹内氏は、反対尋問において、安遠がどのような企業かということについて「説明を受けたかもしれないが、覚えていない」とした上で、安遠の贈賄やそうした疑惑についても「把握していない」と語った。

判決は12月5日に

 4人の尋問が終了したあと、笹本裁判長は同僚の2裁判官と15分ほど合議し、原告側が求めていた追加の証人尋問などを「必要性なし」と退け、口頭弁論終結を宣言した。8月下旬に尋問調書が完成する見込みであることを前提に10月末までに事実上の最終準備書面を提出するよう原告と被告の双方に求め、判決期日を12月5日(木)に指定した。

(木下晴/奥山俊宏・ジャーナリスト)

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