週刊エコノミスト Online 組織論
米大統領選で考えるドラッカーの組織論 石井泰幸
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今年2024年はアメリカ大統領選挙の年であり、ドナルド・トランプ前大統領が銃撃され、またジョー・バイデン現大統領が大統領選からの撤退を表明するなど波乱の様相を呈している。一方で、アメリカ大統領選挙は、アメリカ合衆国の国制がいかなるものかを具体的に示す好例であり、連邦制や合衆国憲法が果たす役割を私たちは身近なものとして体感することができる。しかし、連邦制の考え方は決して政治的な次元にとどまるものではない。それは私たちの身近な組織にも応用可能な考え方である。実際、経営学者のピーター・F・ドラッカー(1909–2005)は、アメリカ合衆国の連邦制という国制からマネジメントの思想を引き出している。そこで、ここでは、アメリカ大統領選挙という時期に、ドラッカーの組織論から組織のあるべき姿について考えてみたい。
ドラッカーは、経営学者として一般的に知られているが、決して象牙の塔の人ではなかった。ナチスの脅威から逃れ、1939年にアメリカ合衆国に移住したドラッカーは、そこで全盛を迎えつつあった企業が社会の中心をなす産業社会を目撃し、『「経済人」の終わり』(1939)、『産業人の未来』(1942)という二つの著作において来るべき産業社会のあり方について論じた。これらは政治哲学の部類に入る著作であったが、『産業人の未来』がゼネラル・モーターズ(GM)の目に留まり、ドラッカーはGMの経営コンサルタントに就任する。その成果は1946年に『企業とは何か』として発表される。それは、GMによって直接活用されることはなかったものの、ゼネラル・エレクトロニクス(GE)やフォード・モーターにおける組織改革に活かされることになった。そして、この著作は営利企業のみならず、公的機関や非営利組織(NPO)の組織設計にも影響を及ぼしていく。
GMの強みは分権制
GMのコンサルタントを務める中でドラッカーが発見したGMの強みとは「分権制」であった。これは、後に『マネジメント』(1973–74)において、ドラッカーが「連邦分権組織」として最良の組織形態と評価したものである。連邦分権組織においては文字通り、組織が複数の事業部門に分割され、それぞれの事業部門が独自のマネジメントを持ち、業績と組織全体への貢献に責任を持つことになる。つまり、各事業部門は本社のトップマネジメントから独立した自治的な組織であり、トップマネジメ…
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